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2006年08月11日

第1章 出航 危機脱出(1)

静寂を引き裂く大音響に、みんなの顔に緊張感がみなぎった。
 危機を知らせる赤色灯が、せわしなく点滅しはじめた。
 各自の、腕時計型携帯モバイルpcが、合成音声を発して、危機を伝えていた。
 「全員スクランブル体勢を引け。」
「子供たちは、全員船室に戻って静かにしているように。指示があるまで勝手な行動はつつしめ。」
「絶対甲板には出るなよ。」

「メインスイッチオン。」
「ハリアップ。」
「気配を消すのだ。」
「減速開始。一二ノットまで減速。」
「取り舵いっぱい。」
「右旋回六〇度。」
操舵室で海江田千里船長が大声を張りあげ矢継ぎ早に、しかし落ち着いて的確に指示を出していた。
 艦内は、すでに臨戦態勢に入り、全員が緊張感をにじませて、せわしなく計器類を操作したり、動き回っていた。
子供たちは、船室にひとかたまりになって、事の成り行きがどうなるのかと、固唾をのんで見守っていた。
 丸いトンボメガネをかけた『トンボ』君は、心配でたまらないという風で、落ち着きが無く、メガネの奥の目は視点が定まらず空をさまよっていた。
 『トンボ』君というのは、小笠原翔太君のことで、小学6年生。お父さんは、小笠原太一さん。お母さんはみどりさん。小学5年に年子の弟健司君、ちょっとのろまなので『ノロ』君と呼ばれている。小学3年に妹の優花ちゃん、『スミレ』ちゃんと呼ばれている。3人兄妹の長男なんだ。

 今どきの家庭で、3人兄妹は珍しい。少子高齢化が益々ひどくなり、女性が結婚して産む子どもの数は1を切って久しく、とうとう0.92まで落ち込んでしまっていた。
 西暦2004年に、100年先まで大丈夫と時の政府が大見得を切った、改正年金法は当の昔に破綻していた。
 2005年に人口の増加が止まり、減少に転じたのを皮切りに、益々少子化に拍車がかかり、団塊の世代と呼ばれた、昭和22年から24年生まれの世代がほとんどこの世から姿を消して、日本国の人口は、1億人を割り込んでいる。
 住民の10人に1人は外国人という異常事態に、政府は外国人にも手軽に国籍を取得させる方針に切り替えたが、遅きに失した感は否めない。
 天皇制は、皇室典範の改正により、女系天皇が認められ、女性の天皇が150代天皇として継承されていた。
 しかし、急激な外国人の流入と混血により、単一民族としての誇りはいつしか希薄になり、女性天皇の皇太子が、外国の皇室からお嫁さんをもらうことに対して、異議を唱えるものは、国会議員と、皇室の一部守旧派を除いてはほとんどいなかった。
 それほどに、人種間では交流が急速に広まっていったが、こと領土となると、地球上からいざこざが絶えることは無かった。

 知ったかぶりの、『チョロキュウ』は、「大丈夫だよ。この船は、最新技術のレーダーにも見つからないように出来ているんだ。先日カツゾーじいさんたちが、話しているのを聞いたんだから間違いない。心配しなくて大丈夫だよ。」と、『チョロキュウ』は念を押して言った。
 『チョロキュウ』は、中学1年生。名前は、佐々木信也。サッカーが得意なんだ。
 「それなら安心だね。」小学校五年生にしてはおませな、『レモン』ちゃんが相づちを打った。
 『レモン』ちゃんっていうのは、『サスケ』君の妹なんだ。小学5年生で海江田瑞希と言うんだ。『ノロ』君と同級生で、家も近所なんだ。彼女がどうして『レモン』ちゃんて呼ばれるようになったかというと、昔ラジオの女性パーソナリティーで落合恵子さんという人がいて、とても人気があったんだって。その人のあだ名が『レモン』ちゃんで、おばさんか誰かが、瑞希ちゃんは落合恵子によく似てると言って、いつの間にか『レモン』ちゃんって呼ばれるようになった。
 「それでもぼくは心配だなあ。」『泣きブタ』君は、おどおどしながら言った。「だって、この船はそんなにも大きくないし、スピードだっていまいちだし、なんたって戦う武器すら持ってないんだから、いざっと言うときは心もとないよ。」
 『泣きブタ』君はとても臆病で、何かあると直ぐ泣き出してしまうので、こう呼ばれるようになった。本人はとてもいやがってるよ。まだ小学2年生だし、お母さんに甘えたい年頃だものしかたない。本名は、渋谷哲平。強そうな名前なんだけど、名は体をあらわさない。
 『学者』君は、我関せずという風で、パソコンのキーボードをせわしなく叩いていて、しきりに何かを計算しているようだった。
 『学者』君というのは、高校2年生で、名前は野口博士という。とにかく頭の回転が良くて物知り。あまり勉強しているようには見えないんだけど、テストの点はいつも一番。特に、コンピュータのことに関してはとても詳しくて、ビルゲイツを凌ぐんじゃないかって、県下でも評判。彼のことをみんなは尊敬も込めて『学者』君と呼んでいる。
『学者』君は、得心したように「西暦1999年8月18日のグランド・クロスで、小惑星の幾つかの軌道に変化が現れている。詳しく計算しないと確かなことは言えないが、小惑星04262イチローが地球に大接近する可能性がある。」と、つぶやいた。
「この小惑星は、日本人大リーガーのイチローが262本の大リーグ年間安打を記録した年に発見されたので、発見者が大リーグ好きだったのでイチローと命名した小惑星なんだ。」

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危機脱出(2)を読む
posted by 冬野☆男 at 22:37| Comment(3) | TrackBack(0) | 第1章 出航 危機脱出 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月12日

第1章 出航 危機脱出(2)

復習する


「ところで『学者』。そのグランドなんとかというのは何なんだい。」と、『キャプテン』が、『学者』君に聞いた。
『キャプテン』君は同じ高校2年生だが学校は別である。彼はサッカー部の主将をしている。それで『キャプテン』って呼ばれてるのだ。本名は三浦知良。
「グランド・クロスだよ、キャプテン。太陽系の惑星が太陽の片側に全て集まる現象で、半世紀ほど前の1999年8月18日のグランド・クロスでは、水星、地球、火星、木星、土星、冥王星と月が一直線に並び、この直線と直角方向に天王星と海王星が並び、金星が少しずれたが水星の近くに位置してグランド・クロスを形成した。過去に、惑星が片側に多く集まると強力な電波障害が起こることが確認されていたんだ。これほど見事に、グランド・クロスが形成された記録はないし、今後あるとしても、遠い未来の話だ。世界中が大パニックに陥るので、このことは報道されなかったが、過去に例のない電波障害が現れた。だから、きっと宇宙ではとてつもないことが起こっているに違いないと確信して、小惑星の軌道を調べていたのさ。その結果大変なことが分かった。小惑星04262イチローが地球に衝突するかもしれないんだ。」
「小惑星って、いったいどのくらいの数があるの。」
「正確には分からないけど、軌道がわかっているだけで20万個以上あるよ。100万個を超すのは時間の問題だね。数千万個はあるだろうと予測されているよ。1801年1月1日に最初の小惑星ケレスが発見されてから関心を集めるようになり、毎年多くのアマチュア天文家が夜空を捜索しているよ。
だってそうだろう。彗星は年に数個しか出現しないのに比べて、未発見の小惑星はそれこそ星の数ほどあるんだぜ。ぼくもいつか発見できたらいいと思っているんだ。
発見した人には特別のご褒美があるんだ。」
「ご褒美って何。」
「発見した小惑星に名前を付ける権利をもらえるんだ。すごいだろう。」
「本当?」
「本当だとも。日本人が発見した小惑星で、コマツサキョウというのがあるよ。群馬県の小林隆男さんというひとが発見して命名したんだ。その他にもユニークな名前があるよ。
アンパンマンとか仮面ライダーとか、道後温泉なんて言うのもあるよ。」
「へー、すごいな。ぼくも、小惑星ハンターになろうかな。」
「2005年には、10番目の惑星セドナが発見された、と話題になった。でも、直径が冥王星の4分の3しかなく地球の衛星の月よりも小さいので小惑星か、惑星かで意見が分かれてケンケンガクガクだった。2006年8月25日にとうとう結論が出た。冥王星は矮惑星という結論になった。わずか76年で、冥王星は惑星の仲間からはずされてしまったんだ。
冥王星は発見されたときから、惑星ではないのではないかと疑問視する学者が多かったんだ。小惑星と惑星の純然たる区別が無いのが原因なんだ。小惑星ケレスの直径が約1千キロメートルで、2002年に発見された幻の第10番目の惑星といわれるクワーオワーは約2千キロメートル、月の3分の1しかない。セドナクラスの惑星はこれからも何個かは見つかると思うよ。まちがいない。」
「2006年8月25日まで惑星の数は9個だった。2006年8月25日に国際天文学連合総会で、惑星の新定義が提案され、一気に12個に増える予定だったんだ。ところが、この新定義は否決され、挙句の果てに冥王星が惑星から降格して、惑星の数は8個になったってわけさ。」
『学者』君のうんちくは際限なく続いた。
レーダーには、南南東方向20マイル先に船舶の航路が映し出されていた。
徐々に、『カメレオン号』との距離が縮まっていった。
 船長の指令からすでに5分が経過していた。
『カメレオン号』の船体は、甲板は濃い藍色に、船底は乳白色に変化し、まるで巨大なマグロのように大海原に溶け込んでいった。
 程なく、『カメレオン号』は、海上から忽然と姿を消していた。

 「今はまだ、何処の船とも遭遇したくない。われわれの目的を達成するまでは。」吉里吉里国元大統領のカツゾーじいさんは心の中でつぶやいた。
 日本国の領海内、領空内には、国境警備のための巡視艇や偵察機が増強されていた。
 石油資源が掘り尽くされ、百年後には枯渇することが明白になってから、天然ガス資源に注目が集まるようになり、ガス田の開発が脚光を浴びてきた。日本の周辺海域には、優良なガス田が多数存在することが明らかになり、開発に当たって、隣国とのトラブルも頻発するようになった。
さらにアメリカが名指しする東洋のならず者国家の世襲による独裁体制がほころび、粗末な漁船に乗り込んだ難民も急激に増加して密入国が後を絶たないため、警備が強化されているのだった。
さらに、日本のマフィアと手を組んだ地下組織が、覚醒剤、LSD、拳銃、偽札などを海上から日本へ持ち込もうと、暗躍しているものだから、国境警備隊はその取り締まりにも本腰を入れ始めたのだった。

 もう半日も航行すれば、間違いなく公海に達する。それまでの辛抱だ。
 『カメレオン号』は、普通に航海している分には、レーダーで捉えられることはない。
 偵察用の人工衛星に積み込まれたカメラは、地上の車の動きまでも捉えることが出来る
ほど精度が優れているが、それにすら『カメレオン号』は捉えられることはない。
熱を外に出さないので、赤外線カメラには感知されることはない。超音波も吸収してしまい跳ね返さないため、レーダーやカメラの目から逃れることが出来る。
さらに、特殊塗料と特殊合金で造られた『カメレオン号』は、擬態と保護色の合わせ技で、視覚を惑わすこともできる。まさに、カメレオンなのである。

 どうやら、『カメレオン号』のレーダーが捉えた船舶は、『カメレオン号』には気づいていないようだ。
 すでにその船舶は、『カメレオン号』の後方を西に向かって進んでいた。

20××年7月28日。この日は、『カメレオン号』の乗員たちにとって忘れることのできない記念日となった。なぜなら、その日、彼らは日本国籍を捨てることになった。
戸籍法が改正され、簡単になったとはいうけれど、国籍を新たに取得したり、復活することはそれなりに大変だけど、捨てることは簡単に出来る。
長年にわたって綿密に計画された彼らの日本脱出計画は、ついに実行されることになった。

危機脱出(3)





posted by 冬野☆男 at 15:06| Comment(1) | TrackBack(0) | 第1章 出航 危機脱出 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月15日

第1章 出航 危機脱出(3)


復習する

ドッグの中で静かに出番を待っていた『カメレオン号』は岸壁に繋がれていたもやい綱を解かれ、静かに岸を離れて行った。
計画の決行の日は、計画の初期の段階ですでに、学校の夏休み中の新月の日と決められていた。夏休み中なら、家族で旅行に行ったり、親戚のところへ遊びに行ったりする家庭も多いので、しばらく留守にしていてもあまり不審には思われないだろう。なにより、夏休みが休みの中では一番長いからね。それに、冬は海の天候も大荒れになって危険も大きいからそれで、夏休みを選んだわけさ。
彼らは、出来るだけ気づかれずに岸を離れたかった。そのためには月明かりさえも邪魔だった。新月の日を選んだのはそんな訳があったからだ。
東京ドームの十倍以上の広さがある鶴亀造船所のドッグ内の明かりは全て消えていて、あたり一面漆黒の闇が広がっていた。陳腐な表現しかできないけどこれが一番しっくりするのであえて言わせてもらえば、まるで闇夜のカラスのような暗さで、誰かに鼻をつままれても分からないくらい暗かった。
それで、大人はもとより子どもたちの心臓は恐怖心と興奮から早鐘のように高鳴っていた。
でも恐怖心よりも気持ちの高ぶりのほうが大きかったのは言うまでもない。
三号ドッグから『カメレオン号』は、静かに滑るように太平洋に滑り出した。
普通なら、シャンパンを割って派手な進水式をやるのだろうが、そんなことは抜きで、ことは隠密裏に進められた。
星の輝きはいつにも増してきらめいている様に『サスケ』には感じられた。
東の空に、こと座のベガ、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイルを頂点とする、夏の大三角形がいつもより大きく輝いて見えた。
まるで彼らの航海を祝福するかのように。
南の低い位置には、さそり座のアンタレスが赤く輝いていた。それはまるで、サソリの心臓の鼓動のように瞬いていた。

燃料電池エネルギー船『カメレオン号』はこうして航海に旅立った。
鶴亀造船所のドッグを離れて、五日目の朝、あたりには島影一つなく、360度見渡す限り水平線が続いていた。
水平線はかすかに丸みがかって見え、こんな光景を見れば誰だって、地球が球形であることに気が付くんじゃないかなと『サスケ』は思った。
もっとも、地球が丸いという潜在的な知識がそう思わせたのかもしれない。
昔の人は、地球は巨大な像が支えており、海の果ては巨大な滝のようになっていて、そこに落ちたら助からないと信じられていた時代もあったのだから。
地球が完全な球形だということは、コロンブスによるアメリカ大陸発見や、マゼランの世界一周などの大航海時代があって実証された。
それからわずか500年程しか経っていない。
人工衛星が地球の全景を写真に収めてから、1世紀しか経っていない。

出航の時の張りつめていた空気も和み、みんなの顔にも笑みが戻ってきていた。
子供たちはジュースで、大人たちはシャンパンでささやかな乾杯をした。
彼らの遠大な計画から見れば、まだ本の序章に過ぎないのだが、とりあえず公海上に出られたことで、一つの区切りがついた。
時折、トビウオが水面から飛び立ち、海面すれすれに滑空する姿が見られた。胸びれが大きく発達しているし、腹びれも大きいから、まるで複葉飛行機が飛んでいるような優雅さだ。太陽の光を受けて輝いて見える。魚が空を飛ぶなんて本当に不思議だ。跳躍力のあるやつは、2〜3百メートルは飛んでいるんじゃないかな。それにしても、飛んでいる間呼吸は苦しくないのかなぁ。『サスケ』は、ちょっと不思議な気がした。
「トビウオは幼魚の頃は、ひげが生えているんだよ。大きくなると消えてなくなるんだけどね。そのひげの長さと体長の比率で、種類が分かるんだよ。」と、大学で海洋学部に通っている『サカナ』君が教えてくれた。
「ところで、魚に関する問題だよ。頭から尾ひれに向かって縞模様がある魚の縞は、縦縞か横縞か。さて、どっちでしょう。」
「イサキとかの縞模様だよね。頭から尻尾に向かって水平になっているから横縞じゃないの。でも、問題に出すところを見ると怪しいな。どっちだろう。素直に横縞。」
「ブー。残念。魚の縞模様は頭を上にして見たときの状態で判断する事になっているから、縦縞でした。」
「ところで、トビウオ以外にも、空中を飛ぶ魚がいるんだけどな。誰かわかる人はいるかな。」
「マンタは飛ぶよ。」と『泣きブタ』君。
「マンタは飛ぶというよりも、跳ぶというほうがぴったりだね。」
「イカの仲間でトビイカというのがトビウオのように海面を滑空することが知られているんだ。そのうちお目にかかるかもしれないね。」

その日の晩、子供達は甲板に出ることを許され、久々に潮風を胸いっぱいに吸い込んだ。
子供達は、満天の星空を見上げながら、宇宙について語り合っていた。
「この宇宙の中で、地球と同じような生物が存在する星はあるのだろうか。」
「ぼくはあると思うよ。宇宙は無数の小宇宙の集まりで、ぼくたちの銀河系といわれる小宇宙は、その中でもごく普通の宇宙なんだ。そして、太陽系もごく普通の星だから、あると考える方が自然だと思うよ。ただし、ぼく達の地球を除いた太陽系の中には99.999・・・・%無いだろうな。電波望遠鏡のおかげで、太陽のように惑星を持っている恒星もどんどん発見されているよ。2005年4月30日には太陽系外惑星の写真が公開されたんだ。大きさは木星よりも大きな惑星で、地球規模の大きさの惑星は、今の技術では探せないらしい。それと、最近の隕石の研究から、地球の生命の誕生は自然に発生したのではなく、宇宙から生命の種が飛んできて、地球はその種が育つ環境にたまたまあったらしい。」
「それじゃ、宇宙人がいるとして、宇宙人はどんな姿をしているのかな。ローソン・ウェルズの火星人とか、ウルトラマンとか、バルタン星人、キングギドラとかに似ているのかなあ。」

危機脱出(4)




posted by 冬野☆男 at 15:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 危機脱出 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月16日

第1章 出航 危機脱出(4)

復習する



「それは分からないよ。ぼくたちは、地球の生き物しか知らないし、今君が言った生き物だって、想像上の生き物だろう。この地球上にだって、いろんな種類の生物が棲んでいるし、絶滅してしまった種類もまた数多くいる。今は、人間を含めたほ乳類が一番進化した生物と見られているけど、この先ほ乳類からさらに進化した生物が出現しないとも限らない。いや、きっと出現するだろう。今から、一億年後にはほ乳類に替わって、別の種族が地球を支配しているかもしれない。人類は進化した別の生物になっているか、絶滅してしまいこの世にはいないかもしれない。人間なんて、この地球に現れたのは、長い地球の歴史から見れば、つい最近のことなんだよ。ゴリラやチンパンジーなどのいわゆる類人猿と分かれたのが、約500万年前といわれている。宇宙の誕生ははるか140億年前なんだぜ。それと、多様性からいったら、昆虫にはかなわない。なんとこの地球上には50万種類の昆虫がいるんだぜ。空を飛ぶものから、水中や地中にも生息する。蚊の仲間のユスリカの一種で100度の熱湯や、氷点下、強酸でも死なない昆虫の卵がある。そんなことを考えると、地球上で最後まで生き延びることができるのは、昆虫じゃないかな。」
「火星人がたこ入道のような形で描かれたのは、望遠鏡で火星を見ると、そこには幾筋もの運河らしき線が見えたものだから、火星に運河があると思われ、運河を建設するほどの文明が発達しているのならば、脳も発達していて、脳みそもいっぱい詰まっているに違いないし、火星の重力は小さいので、丈夫な骨格が無くても身体を支えることが出来るから、たこ入道のような形で描かれるようになったんだ。まあ、地球人の考えそうなことだな。バルタン星人やウルトラマンはテレビの中の悪役とヒーローだから問題外だね。」
子供達が、甲板で話に夢中になっていると、天中から東南の水平線に向かって、大きな流れ星が明るい軌跡を描きながら流れた。
「あっ! 流れ星。」
『サスケ』が叫んだ。
『マンガ』君(安部勝一)は流れ星が消えないうちに、急いで三度願い事を願った。
「僕たちの航海が無事に成功しますように。僕たちの航海が無事に成功しますように。僕たちの航海が無事に成功しますように。」
迷信だとは分かっていても、良いと言われることはやっておいて損はない。『マンガ』君はそう思った。

『イサム』おじさん(安部イサムさん)は緊張のあまり武者震いをしているように見えた。おじさんの膝頭が小刻みに震えているのがはた目にもよく分かった。
太一おじさん(小笠原太一さん)も同じように武者震いをしていた。
太一おじさんのお父さんは、数十年前日本から独立しようとして戦った吉里吉里国の初代大統領だった。『サスケ』たちの生まれるずっと前、昭和時代のことだ。
太一おじさんはその時はまだ小学校の低学年で、イサムおじさんのような活躍ができなかったことが、子供心に悔しかった。吉里吉里国の独立が失敗したことが無性に悔しくて時々夢に見ると言う。よっぽど悔しかったんだろう。
『イサム』おじさんはそのとき、少年保安官として大人に負けない、いや大人顔負けの活躍をしたんだ。その働きは井上ひさしさんという作家が『吉里吉里人』と言う小説に詳しく書いている。かなり長編小説だけど読んでみると当時のことがよく分かる。でももう本屋さんでは売っていないので、電子図書で見るしかない。


危機脱出(5)


吉里吉里国について
posted by 冬野☆男 at 11:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 危機脱出 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月17日

第1章 出航 危機脱出(5)

復習する


吉里吉里国の独立宣言は、日本国の面子をかけた執拗な抵抗に会い、残念ながら成功しなかった。
だから、今度は失敗しないように念には念を入れて計画された。計画したのは、もちろん『カツゾー』さん『太一』さんたち大人の人たちが中心である。
この船の乗員はほとんどが吉里吉里国人か、吉里吉里国と関係ある人たちだが、『サスケ』一家は吉里吉里人じゃない。彼らはお父さんの仕事の関係で、『サスケ』が小学校に上がる前に幻の吉里吉里国に引っ越してきた。だからどちらかというと移民とでも言おうか。
『サスケ』の本名は、海江田明という。いま、中学校の2年生である。彼は忍術を習っていてクラスの人気者である。『サスケ』という名前は、真田雪村の家来で甲賀流忍術の名人猿飛佐助からつけられた。
『サスケ』のお父さんの名前は、海江田千里という。『カメレオン号』の船長をまかされている。
彼は、4年前までは外国航路の船長をしていたんだ。だけど、一度航海に出ると何ヶ月も家に帰らなくなるので、子供たちがかわいそうだといって、三陸海岸の観光会社で船長をする仕事に変えたんだ。
でも、本当のことはよく分からない。イサムおじさんとどうして知り合ったのかも謎である。
子供たちは、学校生活も楽しく過ごしていたし、友達ともうまくいっていたから、父親が家にいないことについては、それほど気にしていなかった。
近頃の親ときたら、子どもに気を使いすぎる。自分たちの老後を支えるのは、子供達世代ということがわかっているから、気にしているんだ。
小学生高学年から中学入学ぐらいで、声変わりがしたりシンボルに毛が生える年頃になると、親父とかお袋と話をするのがなんとなく気恥ずかしくて、嫌なんだよね。
一本でも生えてきたら、なんか大人になったような気がして、友達に自慢したくなるんだ。その頃って、不思議で、男の子なのにおっぱいもはれてくるんだよね。しこり見たいのが出来てきて、痛いんだ。だから、友だちのおっぱいをたたいたりしてからかうんだけど、いつのまにか、しこりも消えてしまうんだけどね。

カツゾーの夢(1)

posted by 冬野☆男 at 15:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 危機脱出 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第1章 出航 カツゾーの夢(1)


復習する


「今日はわれわれにとって特別の日である。早いものであの屈辱の日から30有余年が経った。」カツゾーじいさんは感慨深げに語り始めた。
大人たちは、カツゾーじいさんのほうに視線を向け、一言も聞き漏らすまいと耳をそばだて、真剣なまなざしで凝視していた。
「あの時は、国際社会を味方に付け、独立の正義は我が方にあったのだが、すんでのところでわれわれの願いは成就しなかった。非常に悔しい思いを味わった。」
カツゾーじいさんは、江戸時代にお家取り潰しに遭った武士が、お家再興を誓って行動したように吉里吉里国の再独立を密かに夢見て工作していたんだって。
実際、カツゾーじいさんの先祖は、豊臣秀吉が小田原城を総攻撃したときに参戦しなかったかどでお家取り潰しの憂き目に会った、東北地方の豪族葛西晴信の家臣だったので、因縁めいたものを感じていた。
その当時、葛西家と大崎家は東北地方の豪族で勢力争いの真っ最中だった。
秀吉は天下統一をもくろんでおり、自分に忠誠を誓う証として、全国の諸大名に小田原攻めに参戦を求めた。独眼竜政宗として名高い伊達政宗は、中央の動静に敏感だったが、葛西も大崎も所詮田舎侍で、自分たちの権力争いのほうが火急の事態と考えていた。
政宗の、「東北のことは自分に任せろ。俺がうまく秀吉に話しておくから、参戦しなくても大丈夫。」との言葉を真に受けて、小田原攻めには参戦しなかった。
秀吉は、彼らが参戦しなかったことに激怒し、両家の領地をとり上げてしまった。挙げ句の果てがお家取りつぶしという最悪の事態を招いてしまった。
だから、カツゾーじいさんは伊達政宗に対して、悪い感情を抱いている。

慎重の上にも慎重に、細心の注意を払い吉里吉里国の同志たちは新たな作戦を練った。その中心がカツゾーじいさんであり、カツゾーじいさんの長男太一おじさんとイサムおじさんも、当時は少年ながらも、その日が来ることを固く信じて活動していたんだって。
そして、皆が吉里吉里国再興を果たそうと模索している間に、世界中を驚かす大きな事件が起こったんだ。
それは、ぼくの伯父さんの海江田四郎が率いる日本の海上自衛隊の原子力潜水艦『大和』が、世界に向かって独立宣言をしたことなんだ。
なんたって世界中が驚いたのなんのって、今までの国の概念を根底から覆すような出来事なんだから。伯父さんは原子力潜水艦大和を独立国として認めるように、ニューヨークの国連ビルに乗り込んじゃったんだ。
そのニュースを聞いて喜んだのがカツゾーじいさんで、こんな手があろうとは、吉里吉里国の再独立はその手で行こう、ということに決めたんだって。
カツゾーじいさんは同志を集めた秘密会議でこう言ったんだ。
「領土を持とうとするから国境が生まれ、国同士の争いごとが起きる。
現に、北方四島は未だに返還されないままだし、ロシアは返す気が無い。政府も口では北方領土返還と唱えているけど、腰が引けているから全く交渉にならない。こんな状態じゃ100年経ったって解決しやしない。
東シナ海では、隣国との間に竹島や尖閣列島の魚釣島の領有権問題が解決されないままくすぶっている。
それこそ地球上のアフリカ、中東アジアを始め世界中のいたるところで国境紛争や民族の対立など国同士の争いはゴマンとある。
国にとって領土というのは大切なものだから、国民の犠牲を払ってでも守らなければならないと考えられている。だから紛争や戦争が絶えないのだ。
小笠原諸島の無人島では、波の浸食や風の風化によって島が消滅しないよう莫大なお金を使って護岸工事をしたほどだ。外国からは、あれは島ではなく岩礁だと指摘されてもいる。
地球はわれわれ人類だけの物ではない。
人間はたまたまそこに住んでいるだけで、他の生き物も棲んでいる。彼らに、国境や領土といった概念はない。
従って、われわれは領土の主張などは一切しない。先の独立運動では、猫の額ほどの面積でも、日本国にしてみれば領土を失うことになるのだからそれこそ必死だったわけだ。そのことを教訓にして、われわれは他国の経済的排他水域の外、つまり公海上で生活する道を選択した。それがわれわれ吉里吉里国民の生き方だ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
われわれはこの惑星を地球と呼んでいるが、実際に陸地と海洋を比べれば陸地のほうが少なく、海の面積が7割を占めるのだから、地球以外の生き物がいたとしてその生物から見れば海球と呼んでも不思議の無いほど海が広いのがこの星なのだ。
陸上では一番高い山といわれているエベレスト(中国名チョモランマ、チベット名サガルマータ)でさえ、標高8848メートルしかない。それに比べて、海底の一番深いところはマリアナ海溝で水深10920メートルもある。
陸上の生き物は陸地の表面にへばりついているだけだが、海の中の生き物は、水中のいたるところを生息場所にしている。
狭い陸地に人間がひしめき、森林を切り開き、野生動物や植物の生息域を脅かし、動植物の希少種が毎日毎日消滅していく地球。地球が人類のためだけに存在していると、勘違いしているおろかで傲慢な人間たちのなんと多いことか。われわれ吉里吉里国民は、地球上のあらゆる地域との紛争を起こさないよう海上生活者になる。
われわれのこれからの産業は、インターネットプロバイダー(IP)である。狭い船の中でやれる産業は、漁業かコンピュータ関連しかない。大陸棚と呼ばれる各国の領海内が良好な漁場で、公海上では漁業は成り立たない。その点、IPはスーパーコンピュータと優秀な人材がいれば、海上だろうと氷上だろうと、孤立無援の山中だろうとどこでも出来る。まさにわが国にふさわしい産業である。必ずコンピュータ全盛の時代がくる。いや既に、20世紀終盤からその地位は変わりつつある。重厚長大な、産業などコンピュータ関連企業にその地位を脅かされることになるだろう。
われわれは、世界でもっとも安全でセキュリティーに優れたプロバイダーとして世界中の銀行や企業と契約を結ぶ。

カツゾーの夢(2)

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2006年08月18日

第1章 出航 カツゾーの夢(2)

復習する



演算機能の優れたスーパーコンピュータも丸ビルのような巨大な大きさは必要なくなり、せいぜい丸ビルの中のワンルームで事足りるようになるはずだ。
そうなれば、船に積み込んで運用することも可能になる。だから、コンピュータのスペシャリストを今から養成しておかなければならない。」カツゾーじいさんはここまで一気にまくし立て、一息入れた。そして、会議のメンバーを見回した。
みんなは、カツゾーじいさんの演説に酔いしれ、新たな闘志を胸に秘めた。
「さて、諸君はシーランド公国という国を御存知かな。イギリスの東岸10キロメートル沖合いにシーランド公国がある。元々はイギリス軍の海上要塞として建設されたものだが、第二次世界大戦が終わってイギリスが手放し、誰も常駐しなくなった。
1967年9月2日、パティー・ロイ・ロバーツなる人物がこの要塞に突如上陸し、あろう事か独立宣言をした。
世界は狭い、わしらと同じようなことを考えるやからがいたのだよ。
慌てたイギリスはそんなことは認められないと裁判を起こしたが敗訴してしまった。
このシーランド公国には14人が住んでおり、軍隊もある。といっても兵士は一人だけで、武器もライフル銃が一丁あるだけらしい。
しかし、通貨もあるし、切手も発行している。国旗もある。われわれにとってはとても参考になる。」

そのときを境に、プロジェクトチームが結成され、海上生活のための研究がスタートしたんだって。

二度目の独立工作は、以前にも増して慎重にならざるを得ない。
だってそうだろう、それこそ公安当局も吉里吉里国に対しては不穏な動きが無いかと毎日目を光らせていただろうから、なおさらだよね。
アジトを作らなければならないが、さりとて広大な用地の取得や工場の建設は目立ちすぎて危険がありすぎるから行き詰っていたんだ。そんな折、独立準備のカモフラージュには格好の物件が見つかった。
造船不況で経営に行き詰っていた鶴亀造船所を破格の値段で手に入れることができ、そこで密かに『カメレオン号』の造船が始まったんだって。
30数年前、吉里吉里国は、日本国の執拗な抵抗に遭い独立には失敗したんだけれど、幸いなことにあの時用意した潤沢な軍資金は日本政府に発見されることなく無事だった。その軍資金の一部を、鶴亀造船所の買収資金にあてたのだそうだ。
「『カメレオン号』は非武装中立を目指すため兵器と呼べるほどの武器は搭載していないが、最新の科学技術の粋を随所に集めてある。」とぼくのお父さんが言っていた。
そのひとつは、石油などの地下埋蔵エネルギーや、使用済み副産物の安全処理が完成していない原子力エネルギーなどは一切使わないで、地球環境にやさしい水と太陽と風からエネルギーを作り出していることなんだって。
ぼく、物理はあまり得意じゃないから良く分からないけど、高校生の『学者君』お兄ちゃんが教えてくれた。
「水を電気分解すると、水素と酸素になる。水素ガスをコントロールして燃やし、エネルギーとして利用する。
この地球上では化石エネルギーは有限だが、水は無限にあると考えていい。水素ガスとして利用した後は、最終的に水と二酸化炭素に戻るからいつまでも再生される。
これこそ究極のエネルギーなんだ。
今は、石油産出国が石油を送り出すために、パイプラインが延々と続く風景が見られるが、将来は、水を送るためのパイプラインが世界中を埋め尽くすことになるだろうな。
さんさんと降り注ぎ、地球を温めてくれる太陽のエネルギーも今はほとんど利用されていないんだ。
サスケ君はソーラーカーって知っているよね。それと、人工衛星のエネルギーも太陽光を利用しているんだけれどまだまだ利用価値があるんだ。
海の上で生活するには、どちらも直ぐに手に入る重要な資源だから、『カメレオン号』はこのただで手に入る資源の利用方法をとことん取り入れているんだよ。
ただ、晴れの日ばかりとは限らないから、風力や潮力も利用しているけどね。」

カツゾーの夢(3)


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2006年08月19日

第1章 出航 カツゾーの夢(3)

復習する

「どうやら無事に日本国の領海を抜け出せたようだな。」
と、イサムおじさんは感慨深げに息子の勝一に話しかけた。
「これからこの船はどこに行くのかなあ。」
と、マンガ君がたずねた。
「わしらの目的は新しい国づくりだ。
侵略や略奪の無い世の中にすること。他国の領土を奪ったり、地図の上での陣取り合戦など無意味なことを世界中に判らせたい。
それと、原子力や石油に依存するエネルギー政策の転換を各国に呼びかけなければいけない。
1960年ごろ石油資源は30年で掘りつくされると考えられていた。
それから新しい油田の発見や採油技術の向上で未だに石油は掘り続けられてはいるが、枯渇するのは時間の問題なのはいうまでもない。その限りある石油の利権を求めて、国連の名を借りた侵略や戦争が後を絶たない。
一方では、そのエネルギー問題の解決を原子力に頼ろうとしている。
それだってウラン資源が無尽蔵にあるわけではなく、足りなくなることは判っている。それで、使用済みのウランをリサイクルする技術が考えられている。理論上は可能だろ
うが問題が多すぎて、開発を途中で断念する国がほとんどだ。
ところが日本政府は開発を推進している。国民には安全だから大丈夫の一点張りで、安全の根拠は一切示されない。
そんなに安全なら、エネルギーの大量消費地である大都会のど真ん中に原子力発電所を作れば良いんだ。
そうすれば、送電中に損失するエネルギーも大幅に削減される。
でも現実には、都会から遠く離れた過疎地に建設されている。百パーセント安全だとは確信していない証拠のあらわれだ。
いつも力の弱いところ、お金のない地方が犠牲になる。このままでは、人類は自分たちの科学技術を過信しすぎて、取り返しの付かないところに行ってしまう。そんな気がするなあ。
現に、ソビエト連邦という国があったとき、チェリノブイリというところで、原子力発電所の爆発事故があって、多くの人が被爆した。日本でも、東海村で被爆事故がおこっている。
われわれは、ある鉱物資源を求めて航海に出る。
この鉱物資源は、フー岩といって、大気より軽い金属で出来ている。
まだ地球に隕石が降り注いでいた時代に、この金属は宇宙から飛んできて地球と衝突した。
普通なら、大気より軽い物質だから宇宙に飛び出していきそうなものだが、そのときの熱で周りの岩石が溶けて、偶然にもこの隕石を取り込んでしまったらしい。この鉱物資源については、われわれしか知らない。海江田船長が、航海中にたまたま計器の異常から発見した。
この、フー岩資源を利用して、宇宙船を作る。ほとんど燃料を使用しないで運行できる、宇宙船が作れる。
我が吉里吉里国は、何世代か後には宇宙に飛び出すことになるであろう。そのためにも、このフー岩を採掘しなければならない。
幸にも、この資源が眠る海域はどこの国にも所属していない。
いずれ、この地球に生命が存在しなくなる時代が必ず来る。
そのときが来てからでは遅すぎる。
2004年3月には、地球からわずか6600キロメートルの上空を小惑星が通過していった。
地球の半径が約6400キロメートルだから、いかにすれすれを通過したかが分かるだろう。
このときの小惑星は直径が8メートルという大きさだったので、地球の引力に捉えられたとしても、大気圏に突入すると地表に届く前にバラバラになり、大きな被害にはならなかっただろうが、いつでもその危険はつきまとっている。」と、イサムおじさんは熱っぽく語った。

『サスケ』たちの目の前で、またひとつ流れ星が流れた。
この流れ星を合図に、流れ星の天文ショーが開幕した。
一時間に50から60個の流れ星が夜空の一点からシャワーのように降り注いできた。真夏の天文ショーは明け方まで続いていた。
こんな凄い流れ星を見たのは初めてだから、『サスケ』は興奮しちゃって目が冴えてきて、結局朝方まで眠れなかった。
陸の上とは違って、360度まわりが全て空で、人工の光が届かない大海原での天文ショーはそれは見事なものだった。岩手県釜石の空も澄んでいて、それなりに星空は楽しめるけれど、海上で見るそれは、何十倍も素晴らしい。
『学者君』が教えてくれたんだけど、この夜地球はスイフト・タットル彗星の軌道と交差したんだって。そして、『サスケ』たちは一番良い特等席でこの天文ショーを見ることが出来た。
なんだか不思議だよね、流れ星は、彗星がはき出したチリが地球の大気に飛び込んで燃えた軌跡なんだけど。『サスケ』は心の中で思った。


こっくりさん

posted by 冬野☆男 at 21:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 カツゾーの夢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月20日

第1章 出航 こっくりさん

復習する



女の子たちは、天文ショーが始まるまで部屋に集りおしゃべりをして過ごした。
とにかく、女の子は、二人以上集まったら何時間でも話ができる特別の才能を持っている。男の子には全く理解しがたい才能だ。
「ねえ、サキちゃん(伊藤美咲)。こっくりさんで恋占いをしない。」
と、ネネちゃん(安部仁美)が声をかけた。
『ネネ』ちゃんというのは、話のなかに、「それでネ、」とか「だからネ、」「・・・だよネ」と、ネを連発するので、『ネネ』ちゃんと呼ばれるようになった。
「ネネちゃん、こっくりさんやれるの。」
と、サキちゃん。
「できるわよ。わたしのこっくりさんは、良く当たるのでクラスでも有名だったのよ。この間なんか、クラスで飼っていたペットのミニウサギがいなくなり、皆で大捜査線網をしいて捜したんだけど見つからなくて、諦めかけていたの。
わたしが、こっくりさんで占ってみようと言って、こっくりさんをやったわけ。
そうしたら、二階の女子トイレにいると、告げられたのよ。直ぐに探しに行ったら、本当にいたのよ。ねっ、すごいでしょ。
それからしょっちゅう、占いの依頼が後を絶たないの。」
と、サキちゃん。
「こっくりさんって、こうやるんだよ。」
と、言って、サキちゃんは目の前のパソコンに五十音がプリントされたシートをつないだ。シートには、50音のほかに鳥居と「はい」「いいえ」、0から9までの数字、が印刷されてあった。
「コインが必要だわね。」
といって、財布から1枚のコインを取り出した。
「あなたとあなた、手伝ってね。」
と、二人を指差して指名した。
「まずサキちゃんのボーイフレンドのこと占ってあげるね。」
と、ネネちゃん。
「きゃ、はずかしい。やだわ。」
と、ネネちゃんは言ったけど、まんざらいやでもない風だった。
ネネちゃんたちは、シートの鳥居の位置にコインを置き、夫々の人差し指をコインの上に乗せて目をつぶった。
「こっくりさま、こっくりさま、ここは太陽系、第三惑星地球、太平洋の海の上です。どうぞおいでください。おいでなられましたら「はい」へお進みください。」
と、サキちゃんが唱えた。
こっくりさんがやってきたらしく、三人の人差し指が乗っているコインが「はい」の位置へと移動していった。
「こっくりさま、こっくりさま、お尋ねします。サキちゃんの好きな人はこの船に乗っていますか。」
コインは、またもや「はい」の方へ移動した。
ネネちゃんは、ちょっぴりほほを赤らめてみていた。
「こっくりさま、こっくりさま、その人の名前は誰ですか。」
「いやだわ、そんなこと聞かないでよ。」
と、ネネちゃんは大きな声を出した。
コインは、50音表の上を、文字を探しながらゆっくりと移動し始めた。
最初に指した文字は、左に大きく動き、や行で止まり静かに下へ降りてゆき「よ」の文字で静止した。
再びコインが動き出し、さ行の「し」で止まった。
コインは、5つの文字を次々と指していった。5つの文字を移動したコインは、「゛」の上に制止したまま動かなくなった。
その文字は順番に「よ」「し」「か」「す」「゛」と読めた。
「あっ、よしかず君だ。」
と、誰かが言った。
ネネちゃんの顔は上気して真っ赤になっていた。
サキちゃんが言うように、彼女のこっくりさんは当たるようだ。
その日は、こっくりさんに鳥居に帰っていただき、終わりとなった。
サキちゃんのこっくりさんが良く当たるので、翌日から女の子たちは退屈な時間の大半をこっくりさん占いで時間を潰すようになっていた。


忍者通信(1)


posted by 冬野☆男 at 13:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 こっくりさん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月21日

第1章 出航 忍者通信(1)

『サスケ』は勉強よりも体を動かすほうが好きで、同級生が勉強塾やピアノなどの習い事をしていても、そういったものには全く興味を示さず、もっぱら体育会系のスポーツが専門である。空手と水泳、それも古式泳法の道場へ通っている。しかし、一番力を入れているのは忍術である。
それでも、学校の成績は中の上くらいをキープしているので、両親は何も言わない。むしろ、若いうちに体を鍛えるのは、将来の肥やしになるとの考えを持っているから、『サスケ』がやりたいということは、自由にやらせてくれた。
ただ、自分がやると決めたことは途中で投げ出してはいけないと、強く言い聞かせていた。
『サスケ』が忍術を習うようになったきっかけは、たまたま近所に忍術に詳しいおじさんがいて、なんでも自分は免許皆伝とか言っている変なおじさんなんだけど、悪そうな人じゃないし、正直言って勉強も余り好きじゃないので、忍術を習っているっていうのも格好良いという理由で始めた。本当に単純な動機である。
先生の名前は、石川弐右衛門半って言っていた。何でも、青森県で生まれた忍術の流派で中川流の流れを継いでいるというが定かではない。本当にそんな流派があるか、『サスケ』には判らない。
石川先生は、脳を鍛える忍者食というのを常時携帯していた。なんでも『松の実』、『くこ』、『ひえ』、『ゴマ』、『昆布』『小魚の干物』『田七人参』『はとむぎ』『うこん』『かばのあなたけ』など二十数種類の穀物、木の実、きのこ類などをブレンドしたものを、腰に下げた鹿の皮袋に入れて持ち歩いていて、よく食べていた。
石川先生は、これを「健脳忍者食」と名づけていた。十数年の歳月をかけて研究した末に考案したもので、免疫力を高め、栄養価が高く、腹持ちがよく、保存も利くので、忍者食としては最高なんだって。商品化して、売り出そうと真剣に考えている。
『サスケ』も先生に勧められて食べてみたけど、思ったほど不味くはないと思った。しかし、お世辞にも美味しいと言える代物ではない。
『サスケ』が習っている忍術の訓練とはまだ初級から中級の段階で、庭に落ち葉を敷き詰めて、その上を音がしないように歩くとか、自分の背より高い塀をよじ登って越えていくとかである。『サスケ』は自分の動きが機敏になり、身のこなしも軽くなったような気がしてきており、忍術の訓練が楽しく感じるようになってきていた。
最近訓練しているのは水渡りの術といって、水の上にゴザを浮かべてその上を走ること。右の足が沈む前に、左の足を前に出し、さらに左の足が沈む前に右の足を前に出す。そうすれば沈むことなく水の上を走れるという理屈だけれど、これがとてつもなく難しい。
最初のうちは一歩も進むことが出来なかったが、最近やっと三歩目が出せそうになった。これが出来るようになると、橋の掛かってない堀とか湖とか走って渡ることが出来るようになるのである。
ゴザが無くても、例えば、睡蓮の葉が茂った沼なら、その上を走り抜けることもできるようになる。
これをマスターしたら次は、燃えさかる火の中を潜り抜ける術、水の中にもぐって歩く術を教えてくれることになっていた。
それまで待ちきれない『サスケ』は、時々友達と銭湯に行ったときに、湯船にもぐって何分息を止めていられるか競争している。運悪く、一番風呂が大好きな銭湯の主みたいなおじいさんに「お風呂で遊ぶんじゃない。」って叱られることも時々あったが、その場は一旦止めるが、おじいさんが風呂から上がるや否や、早速続きをするのだった。
一時が万事、日々の生活そのものが『サスケ』にとって忍術の修行そのものであった。

忍者通信(2)に続く


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2006年08月22日

第1章 出航 忍者通信(2)

復習する



翌朝、『サスケ』たちが甲板に出て話し込んでいると、何所から飛んできたのか純白の伝書鳩がパタパタと舞い降りて来て『サスケ』の肩に留まった。伝書鳩の片方の脚に文筒があり中には小さく折りたたまれた手紙らしき紙片が入っていた。
『サスケ』は、伝書鳩の脚の文筒から紙片を取り出して広げた。
『学者』君も『ノッポ』君も興味があるらしく、『サスケ』の手元をのぞき込んだ。手紙には、『忍者通信創刊号』と書かれてあった。


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広告主が石川弐右衛門半商店ということは、『サスケ』の師匠の石川先生が関係しているようだ。
『サスケ』は、早速「七方出」のMサイズを注文することに決めた。『サスケ』たちの傍らでじっとしていた伝書鳩に、注文書を託すと、伝書鳩は飛び立った。
しばらく船の上を旋回していたが、方向を定めて飛び去っていった。


なぞの侵入者へ続く
posted by 冬野☆男 at 09:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 忍者通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月23日

第1章 出航 なぞの侵入者

復習する

子供たちが寝室でベッドに潜り込み、ぐっすり寝ていると、突然警戒音が警備室で鳴った。船内に張り巡らせたセンサーが何かを、感知したようだ。一瞬空気が凍り付いた。
「あれほど完璧な警備体制を敷き、厳重な警備をしていたはずなのに、一体何者が、どうやって船内にもぐり込んだのか。」
と、元少年保安官の安部イサムは独り言を発していた。
「誰か、何者かと通じているやつが潜り込んでいるかもしれないな。」
この船には、二重三重のチェックをくぐり抜けなければ乗り込むことは出来ない。
乗船口には自動扉があり、人差し指をセンサーに当て、マジックミラーを覗かなければならない。
各人の瞳孔の模様をコンピュータに記憶させてある。さらに指紋の照合と指先の血管の照合による二重のチェックでよりセキュリティーが保たれている。
ありんこ一匹たりとも入り込む隙など無いと皆は聞いていたはずなのに。
不審者か何か生き物が潜んでいる可能性があるようだ。
船内には、人型二足歩行ロボット4体が警備のために巡回している。キャプテンをはじめ、乗船している乗組員の情報が全て登録されており、記録に無い不審者を発見すると即座に追跡するようプログラミングされている。
ロボットの目は赤外線暗視カメラになっていて、暗闇でも被写体を確実に捉えることができ、そのの映像は警備室のモニターで見ることができる。
モニターの画面は、分割されており4体のロボットから送られてきた映像と各所に設置されている監視カメラからの映像を映し出している。必要に応じてアップにして見ることも可能なのだ。
ロボットから送られてくる映像のどれにも不審者も不審物も写っていない。そして、センサーからもその気配が消えていった。
安部イサムは、モニターを凝視したまま動かない。
「絶対に誤作動などするはずが無い。鉄壁のセキュリティーが破られた。必ず見つけ出してやる。
ココは海の上だから飛行機やヘリコプターでもない限り外へは逃げられない。念のため警備体制を強化しよう。警備用の虫型ロボットも動員するか。」と、低くつぶやいた。

「イヤー、危なかったですね。おやびん。もうちょっとで見つかるところだったじゃありませんか。くわばら、くわばら。」男がつぶやいた。
「せっかく冒険が始まったというのに、こんなところで正体がばれて捕まるわけには行きませんからね、そうでしょう、おやびん。しかし、五遁マスターマントの威力はたいしたもんですねえ。重力、体温、呼気を遮断してしまうんですから。赤外線センサーにも引っかからないわけだ。いつこんな素晴らしい物を手に入れたんですか。おやびん。」
「そのおやびんというのはなんとかならないか。どうも馬鹿にされているように聞こえてしょうがない。」
「すみません。おやびん。おっと、いけねい。また言っちゃった。」
「古くからの知り合いの発明家で、ドクター大松というのがいてね。本人は世界の発明王エジソンをしのぐ発明家だと豪語している。なんでも、特許として登録されているものだけで3000以上あり、実用新案は5000以上持っているらしい。本人も正確な数字までは確認できていないようだ。
中には、使い物にならない特許もあるようだがね。
そいつに、材料を渡したら作ってくれたんだ。材料が貴重なので、3着しか作れなかった。しかし、これを着用すれば、五遁すなわち木遁、火遁、土遁、金遁、水遁の術がたちどころにマスターできるという優れものだ。これからどんなことが起きるかわからないからおまえにも1着あげよう。
五遁の術というのは戦うための術ではなく、身を隠したり、逃げるときに用いる術なのだ。忍術というのは、敵に悟られずに、いかに戦いを避けて目的を達成させるかと言う目的で発達してきたのだよ。だから忍びの者とも言うのだよ。」
「さすがはおやびん、お父上様がルパン三世というだけあって、その血は争えませんね。」相棒が相槌を打った。
「この船にはどんなものでも感知する、万能センサーが装備されている。ところが、この五遁マスターマントはこの万能センサーの感知基準を完璧に凌駕しており、このセンサーには感知されることが無いのだよ。一見矛盾しているようだが、人間の作った機械というものは、所詮そんなものなのだよ。」
「いいか、おれたちがこの船に乗り込んでいることを知られてはいけないのだ。おれたちが見つかれば、あの人に迷惑をかけてしまう。そんなことは出来ない。」
posted by 冬野☆男 at 11:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 なぞの侵入者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月24日

第2章 大航海 『カメレオン号』の秘密(1)

復習する


『カメレオン号』の秘密

 「みなさん、おやつにしましょう。」真理亜おばさんが、鼻歌を歌いながら、陽気な声で子供部屋に入ってきた。
真理亜おばさんというのは、元少年保安官安部イサムさんの奥さんだよ。いつも陽気で、正義感が強く、曲がったことが大嫌い。近所の子供が悪いことをしていると、自分の子供でなくても注意してしまう。
他人のことに無関心な人が多い今の時代には、化石のようなおばさんだ。
例えば高校生がたばこを吸っていたり、大勢で一人の子供をいじめてるとかしたら、真理亜おばさんは黙っていない。
「あんたら、まだ未成年でしょが。今からそげなもん吸っちょてからに、頭馬鹿になるけん、止めときんしゃい。」
 「大勢で、寄ってたかってからに、一人の子ばいじめちょって、情けなか。あんたら、よう恥ずかしくなかとね。」なんて早口の博多弁でいうので、圧倒されてしまう。
普段は標準語なんだけど、感情が高ぶると自然に博多弁になってしまう。
お料理とおやつ作りが大得意で、特にアイスクリーム作りは玄人はだしの腕前を持つ。女子たちは、時間があると、真理亜おばさんの元へ行ってケーキやクッキーのレシピを教わっている。皆は親しみを込めて、マリア様と呼んでるのである。
 「お天気も良いし、気分も爽快だから、皆でアイスクリームでも頂きましょう。今日のアイスはね、黒ごまアイスですよ。見た目は真っ黒で美味しくなさそうだけど、ごまの香りがして美味しいわよ。おばさんの自信作よ。さあ召し上がれ。」といいながら、みんなに手際よく配って歩いた。
 「本当だ。マリアさん美味しい。」真っ先に、サキちゃんが言った。
 黒ごまアイスは、すりつぶしたごまのアイスと、バニラアイスがマーブル状に混ざっていて、その上に要りたての金ごまがトッピングされていて、粒々の食感とマッチして絶妙のハーモニーをかもし出していた。
 「ごまはね栄養価も高く、健康にはとても良いのよ。昔から、病気のあとの滋養強壮食品としてもてはやされていたし、体力が衰えたときの体力回復食品として食べられてきたのよ。それとね、美肌効果や、若さの維持にも効果があるといわれているから、一日一回はごまを食べるといいわね。」真理亜おばさんは、ごまについてのうんちくを披露した。
 「本当なの、マリアさん。じゃあ、わたし毎日ごまを食べるわ。ふりかけでも良いんでしょう。ごま塩のふりかけを食べよっと。」
 「まったく、女の子は美肌とか、若さとなると目の色を変えるんだから。」
「マリアさん、アイスのお代わりある?」
 「あら、残念ね。今日はお代わりないのよ。今度作るときは多めに作りたいけど、アイスプロセッサーがあまり大きくないのよね。美味しく食べて頂けてうれしいわ。」
 「ごまはね皮が硬くて消化が悪いの。だから、すりつぶして食べるのが一番なのね。そのまま食べるときは、手のひらにとって、反対の手の指で押しつぶして食べると消化が良くなるのよ。」マリアさんのうんちくはさらに続いた。

時間の経つのは早いもので『サスケ』たちの航海は10日目の朝を迎えていた。『カメレオン号』は天気にも恵まれ続け、順調に目的の海域に向けて航海を続けていた。
海上保安庁のレーダーやアメリカや日本など各国の探査衛星にも『カメレオン号』は航跡さえ写っていないようだ。
最新鋭船『カメレオン号』には驚くべきいくつかの最新技術が施されている。
まず一番目は、『カメレオン号』は形状模写合金という金属で作られていることである。
形状模写合金って聞いたこと無いと思うけど、それは当たり前である。一般には全く知られていない技術によって作られた、本当に超すごい合金なのである。鶴亀造船所の研究室で極秘裏に開発された全く新しい合金なのである。
水銀などの一部の金属を除けば、一般の金属は固体で硬いというのが普通なんだけどこの形状模写合金は、スライムのように自在に形を変化させることができるばかりでなく、一度作られたら、その形を維持することができる特殊な金属なのである。
またプラステックのように軽くて、形を模写した後は鉄のような硬さを保つことも出来るという優れものである。
まえもって模写したい物の情報を3D画像に加工してコンピュータ処理を施し記憶させておけば、ボタンひとつでその形に変身させることができる。船が沖合いなどに停泊する時には、船を大きな岩礁や島の形、氷山などに変身させて隠すことができるんだ。
何かに近づくときも、景色に溶け込んで船だと気づかれないで近づくことが出来るからまるで忍術である。 
二番目は、この船の名前にも関係あるんだけれど、『カメレオン色素塗料』が船体に塗られていることである。この技術も、形状記憶合金に負けず劣らずの超すごい発明である。
『カメレオン色素塗料』というのは、カメレオンが身を守ったり、獲物に近づいたりするときに周りの木や草や石など環境の色に自分の体色を変えて気配を消していることをヒントにして開発された色素なのである。忍者が、木や岩に紛れて気配を消す土遁の術や木遁の術に実に似ている。
カメレオンやあまがえる、魚類のかれいやたこなどの生き物が回りの環境に応じて色を変化させることから、この研究が進められていった。遺伝子組み換え技術により、大腸菌や酵母菌を利用したバイオ技術により、この色素の大量生産に成功し塗料として使用できることになった。
この二つの超発明によって、『カメレオン号』は上空から偵察衛星で覗かれても海の色に溶け込んでいて、船とは気付かれないというわけである。
これらの発明は、平成の大発明王大松おじさんが発明した物である。大松おじさんは、3000以上の特許を持っている発明王で世界の発明王エジソンより発明の数が多いので、ギネスブックにも載っている。世間からは、ドクター大松の愛称で呼ばれている。
この『カメレオン号』に乗船していると聞いているが航海中も、部屋に籠もりきりで、発明に没頭しているらしく、滅多に皆の前には姿を現さない。かなりの変人である。でも、子供達はドクター大松が大好きである。発明途中のいろいろな試作品を持ってきては、子供たちに使わせて効果を測定しているのである。

第2章 大航海 『カメレオン号』の秘密(2)へ続く



2006年08月25日

第2章 大航海『カメレオン号』の秘密(2)

復習する



こんな小さな船の中で野菜も栽培している。水気耕栽培という方法で、土を使わないで野菜を育てるんだけど、ポマトが元気に育っている。
ポマトというのは、ジャガイモにトマトを接木して作り、収穫期には下にジャガイモ、上にトマトができる。但し、普通のやり方では、それぞれに養分をとられるので、小さいものしか収穫できない。当然食料にはならない。
ここでは、ステビアから作った溶液を水耕栽培液に混合して、トマトもジャガイモも別々に作ったのとそん色なく収穫できる技術を開発した。
ジャガイモの芽には、吐き気や下痢を引き起こすソラニンという物質が含まれているが、芋自体に含まれることがある。土の表面に露出して、緑色をした芋にはこのソラニンが含まれていて、中毒症状を起こす例がある。
芽に毒があるのは知っているが、芋にも毒があるとは露知らず食べてしまう。
そのため、芋のできる部分は、直射日光を浴びないよう、黒いビニールシートで遮蔽されていた。芋を腐らせないで、水耕栽培で収穫できるということは常識では考えられない技術で、さすがに吉里吉里国の科学水準は高いと感心させられる。、
朝起きて、トマトを収穫するのは、子供たちの日課になっていた。
「どうだ、僕のトマトはこんなに大きくて、色も真っ赤だぞ。」
「なによ。私のなんか、こんなに収穫したわよ。」
「見てごらんよ。僕のトマトは、豚さんの顔にそっくりだ。」
朝の収穫の時間は、子供たちの話し声と、笑い声で賑やかである。

今から1世紀も前の1970年に大阪で万国博覧会が開催され、その期間中水気耕栽培でトマトを栽培したら、たった一株から12000個もの完熟トマトが収穫できた。土がないと植物は育たないと考えるのが普通の考え方だけど、この栽培方法を考えた人は、土があるから植物の成長が止まるのではないかと考えて、土に植えるのをやめてしまった。肥料と光と温度管理をすることで、病害虫にも強いので農薬もいらないおいしいトマトが収穫できた。
いろいろな種類の野菜や果物でも、水気耕栽培は応用されるようになってきていて、稲作やメロン栽培などでも良い結果が出ている。
特にマスクメロンは、一つの株から1個しか収穫できなかったのが、1株から何個ものメロンを収穫しても、味の良い糖度が16度以上の上玉が出来るようになった。
これはもう、農業と言うよりも、ほとんど工業生産に近い。
これからの農業は、天気に左右されない、生産も安定する形の水気耕栽培が主流になると思うんだが、なかなかそうはならない。
だって、考えてもごらん、農作物は豊作になれば、価格が下落して手間賃も出なくなり豊作貧乏といわれるし、不作の時は、べらぼうに高くなるし、とても不安定だよね。
こんな状態じゃ、まるで博打をやっているみたいだから、安心して農業を継ぐ若者がいなくなってしまったのである。
メロンなんか、はたから見れば贅沢に見えるだろうが毎日デザートに出てくる。それぐらい実をつけても、美味しいメロンが収穫できてしまうのである。
2,3日前、マリアさんは本物のメロン入りのメロンパンを焼いていた。メロンの香りがして、とても美味しいと評判だった。


忍者通信2号へ続く


2006年08月26日

第2章 大航海 忍者通信2号

復習する

『忍者通信第2号』
『カメレオン号』の船旅も12日目になり、大人たちは目的地に着いてからの夫々の役割のための準備に忙しく動き回っていた。
でも、『サスケ』たち高校生以下の子供たちは大人たちとは違って自由な時間が十二分にあり、その時間を満喫して過ごすことが出来た。
女の子たちは、いつものように『こっくりさん』でいろいろなことを占っているようだ。
男子はというと、釣り糸をたれてのんびり釣りを楽しんだり、宇宙について議論したり、一人黙々とコンピュータのキーボードを叩いて計算に夢中になっているなど、様々であった。一方『サスケ』はというと、「十字法」習得に余念が無かった。
例えば、食事の時に嫌いなピーマンが出たときには手のひらに指で「命」と書く。当然、嫌いなピーマンを克服するためである。
この先ぼくたちの航海はどうなるのかな、なんて不安を覚えたときには前向きな気持ちになるように「大」という字を書く。「大」という字を書くとなんだか自然と勇気がわいてくるような気がするから、『サスケ』には面白くて仕方が無かった。
いろいろな場面で、その状況に応じた「十字法」の文字を考えることなく自然に書けるように『サスケ』は練習に練習を重ねた。
練習の甲斐があって、自分でも驚くほどスラスラと文字が書けるようになっていた。
漢字は、アルファベットやひらがななどの表音文字と違って文字そのものに意味があるので、、その文字に気を込めることによって、思いが通じるのであろう。
『サスケ』が甲板に出て一人で「十字法」の練習に熱中していると、見慣れた純白の伝書鳩が、『サスケ』の頭上を旋回していた。伝書鳩は、『サスケ』の姿を認めると、静かに肩に舞い降りてきた。伝書鳩の脚の通信筒には前回と同じように手紙が折りたたまれていた。
『サスケ』は早速、伝書鳩の脚から紙片を抜き取り読み始めた。


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『サスケ』は忍者通信2号を一気に読み終えた。
「今度は暗号の宿題か。」『サスケ』は心の中でつぶやいた。
また一つやることが増えてしまった。暗号は作ることより、解読する方が難しそうに思えた。なぜなら、作るときは自分が法則を決めてしまえば、その法則に従って自然と字が決まってくるけど、解読するときは、まずどんな法則で書いてあるかを推測しなければいけない。間違っていれば、全く意味を成さない。
最初からやり直さなければならなくなる。幾つもの法則の組み合わせもあるだろうし、暗号の性質を考えれば、知らせたい相手には、判ってもらえなければならないし、それ以外の人には知られては困るので暗号にしたわけだから、厄介である。
「こんなことを覚えて、実際に役に立つのかな。でも面白そうだから、暗号ごっこでもしてみよう。」と、『サスケ』は思った。
これは算数の因数分解のように、ある程度のパターンを覚えておくことが必要だ。場数を踏む必要がありそうだ。誰に、問題を出してもらおうかな。『サスケ』は考えた。
『学者君』と『マンガ君』にお願いして、暗号の例題を出してもらうことにした。
『簡単便利暗号作成・解読機』が来ればノープロブレムだろうけれど、ある程度は自力で解けるようにしておく必要がある。いつも『簡便暗号作成・解読機』が手元にあるとは限らない。
『サスケ』は『簡単便利暗号作成・解読機』を注文したが、出来ることなら使いたくないと思っていた。
前回同様、伝書鳩に注文書を託すと、伝書鳩はいずこかへ飛び去っていった。
代金は、またもや出世払いで良いという。石川弐右衛門半商店とはどんなお店なんだろうと、『サスケ』は思った。
いい加減なお店ではないようだけど、こんなんで商売として成り立つのだろうか。人ごとながら心配であった。

あきすとぜねこへ続く


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2006年08月27日

第2章 大航海 あきすとぜねこ

復習する


あきすとぜねこ

高見竜馬は、音楽好きの高校1年生で彼の側にはいつもギターがあった。いつもポロローンとギターの弦を爪弾いて、作曲に余念が無い。それと作詞も大好きな青年である。
本を読むのも好きで、特に古代の歴史が大好きである。古代の歴史にはロマンを感じるというのである。
背がとても高いので皆は『ノッポ君』と呼んでいる。
実は、『ノッポ君』には隠れた特技がある。それはパントマイムと、切り絵である。
ギターを弾いていないときは、歴史書を読んでいるか、パントマイムの練習か、はさみを使って切り絵をしていることが多い。
『サスケ』たちが甲板で話し込んでいると、ノッポ君がやってきてその場にあぐらをかきギターを爪弾き始めた。そして即興で自作の歌を歌いはじめたんだ。

地球は ぼくらの祖国
ぼくらは旅立つ 国境の無い海原へ
目の前の海は あくまでも青く
領海という海はなく
境界線という線もない
ぼくらの行く手を 
さえぎるものは 何も無い

地球は 僕らの祖国
ぼくらは旅立つ 国境の無い宇宙へ
頭上の宇宙は 限りなく広く
領空という空はなく
境界線という線もない
ぼくらの行く手を
さえぎるものは 何も無い

「ノッポさん、歌上手いんだね。」
と、後で声がした。ネネちゃん(安部仁美)がニコニコしながら手を叩いていた。
「ノッポさん、何かお話してくれない。」
「どんな話がいいかな。」
「お兄ちゃんのお父さんは、吉里吉里国ではどんなことをしていたの。」
「僕のお父さんかい。父は吉里吉里国国立病院に勤めていて、漢方医をしていたんだ。西洋医学では外科手術や薬による対処療法が主力だけれども、東洋医学は病気の原因となる体質改善を目的として、体質にあった漢方薬を使って病気にかかりにくい体質にするんだそうだ。母はそこで看護婦をしていて、父と知り合って結婚したんだ。とても仲良しだよ。僕も結婚するなら父と母のような夫婦が理想だな。」
「お兄ちゃんは、将来何になりたいの。私は、ケーキ屋さんになるの。生クリームいっぱいのショートケーキやロールケーキをお店いっぱいに並べるの。今度作ってあげるね。こう見えてもわたしケーキ作りが得意なのよ。お母さんがいつも褒めてくれたわ。」
「それは楽しみだ。僕もケーキは大好きさ。是非御馳走してよ。」
「いいわよ。サキちゃんにも手伝ってもらおうと。」
「ぼくの父は、ぼくに薬剤師になってもらいたいようだけど、ぼく、本当は音楽家になりたいんだ。世界中の人が歌える歌を作ってみたいな。ビートルズのイエスタデーやイマージンのような曲をね。実は、学校で気の合った仲間とバンドをやっているんだよ。はじめたばかりでレパートリーは少ないけどね。仲間は今頃どうしているかな。船に乗ることは皆に内緒にしてきたからな。」
「私も友達に内緒で来てしまったから、ちょっと寂しいな。大好きな隼人君はどうしているかな。」
「隼人君って、三丁目の角の郵便局の岩田隼人君のことかな。」
「そうなの。隼人君ってスポーツ万能なの。特にサッカーは抜群ね。ベッカムみたいにかっこいいの。一緒に話しているだけで、胸がキュンとなるわ。これって初恋かな。あら、いやだわ。私って。こんなこと、親友の優花ちゃんにも話して無いのに。なんで、お兄ちゃんに話たんだろう。」
「ネネちゃん。『あきすとぜねこ』って知ってる?」と、ノッポ君が聞いた。
「知らないわ。『あきすとぜねこ』ってなんなの?」
「『あきすとぜねこ』ってのは、名前で相手との相性を占う恋占いの一種だよ。ぼく達が小学生の頃はやっていたんだ。」
「ねえ、どうやって占うの。」
「そうだね。まず最初に、自分の名前と、相手の名前を数字に置き換えるんだ。50音のアの段は1,イの段は2,ウの段は3,エの段は4,オの段は5とするんだよ。安部仁美ちゃんはあ(1)、べ(4)、ひ(2)、と(5)、み(2)となり、岩田隼人君は、い(2)、わ(1)、た(1)、は(1)、や(1)、と(5)となるよね。二つの名前の同じ数字を消していって残った数字の合計で占うんだ。2,1,5がどちらにも一つずつあるので、それを消してみると、ネネちゃんは4+2で6。隼人君は1+1+1で3になるね。1はあ(愛してる)、2はき(嫌い)、3はす(好き)、4はと(友達)、5はぜ(絶交)、6はね(熱中)、7はこ(恋人)の意味なんだ。だから、ネネちゃんは隼人君に熱中で、隼人君は好きと言うことになる。良い結果が出て良かったね。」
「ほんとう。うれしいな。お兄ちゃんありがとう。」
「みんなにも教えてあげよう。」

怪鳥ヤタガラスへ続く



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2006年08月28日

第2章 大航海 怪鳥ヤタガラス

復習する

怪鳥ヤタガラス
『ノッポ君』と『ネネちゃん』の会話が弾んでいる時、一羽の見慣れない鳥が飛んできて、『カメレオン号』の一番高いマストに停まった。
その鳥は、羽が真っ黒で一見カラスのように見えるが、大きさはふた周りほど大きく、どこか様子が違う。よく観ると足が3本あるではないか。あれは、今世紀初頭に行われた日韓共同開催サッカーワールドカップの時の日本のシンボルキャラクター、ヤタガラスに違いない。竜馬は咄嗟にそう思った。
「ネネちゃん、ちょっと待っててね。」
ノッポ君はそういうと、さっと駆け出していき、船室に向かった。

「本当なんだ。確かにこの目で見たんだ。神話の中に出てくる空想の鳥だとばかり思っていたんだけれど、現実にみたんだ。あれは間違いなくヤタガラスだよ。」
そう言いながらノッポ君は、息せき切って大人たちを引き連れてネネちゃんのところへ戻って来た。
「その鳥は何処にいるんだ。」
と、イサムおじさんが叫んだ。
「ほら、あそこのマストの上だよ。」
と言いながら、ノッポ君は中央のマストを指差した。
そこには、3本脚の真っ黒な鳥が1羽辺りを睥睨するように悠然と留まっていた。
「確かに脚が3本有るけど、本当にヤタガラスかな。奇形の一種じゃないの。」
と、太一おじさんはいった。
「なんだか気味が悪いわね。」
と、イサムおじさんの妻真理亜さん。
「一体何処から飛んで来たんでしょうね、ここは太平洋のど真ん中だというのに。」
と、太一おじさんの妻みどりさんは不思議がった。
「良い知らせなの、それとも悪い知らせなの。いったいどっちなのかしら。」
と、マリアさんはつぶやいた。
「日本最初の歴史書日本書紀では神の使いとしてヤタガラスは書かれているから、吉兆に違いない。」
と、イサムおじさんが言ったので、一同は安心した。
甲板に人が出てきたのを確認するように、『クアー』と短く一声鳴きヤタガラスは、夕焼けに染まる西の空をめがけて何処ともなく飛び去っていった。
ヤタガラスが飛び立つ時、太陽の光を受け、まばゆい光を放ちながら落下するものがあった。それは、甲板に落ち、ノッポ君の足元にころころと転がってきた。
ノッポ君が拾い上げてしみじみと眺めた。それは町の郷土博物館で見た勾玉(まがたま)の形をしていた。
神話に詳しい太一おじさんが、「これはひょっとすると“ヤサカニノマガタマ”かもしれない。通常の勾玉よりは大きいし、第一風格がある。図鑑で見たのに良く似ている。」
「トンボ君の小父さん、えーと、ヤサカ何とかって何のことなの。」
と、ネネちゃんが尋ねた。
「ヤサカニノマガタマというのはな、日本神話の中に出てくる三種の神器のひとつで、メノウで作られた赤色の勾玉のことなんじゃよ。三種の神器の残りの二つは、クサナギノツルギとヤタノカガミといわれておるんじゃ。クサナギノツルギは、ヤマトタケルノミコトが東征の際、この剣で草をなぎ払い、火攻めの難を逃れたことからこの名がついた。ヤタノカガミはアマテラスオオミカミの岩戸隠れの際に用いられたとされる銅製の大鏡のことを言うんじゃよ。」
と、太一おじさんは優しく説明してくれた。
「このヤサカニノマガタマは大事に取っておこう。何か役に立ちそうな予感がするんだ。」
と、学者君(野口博士)は言いながら、勾玉の穴にピカチューのストラップをつけ首からぶら下げた。その日の夕食の話題は、ヤタガラスのことでいっぱいだった。
「ヤタガラスって本当にいたんだね。サッカーのワールドカップのマスコットに、なんでこんなダサいのを選んだのかなと思っていたんだけれど、実際にこの目で見るとかっこいいな。」
と、サッカー好きのキャップテンが言った。
「ヤタガラスは『アマテラスオオミカミ』の使いとも、熊野の神々の使いともいわれておって、神武天皇が、あっ、これは神話に出てくる天皇で第一代目の天皇と言うことになっておるんだけど、実在したかどうかは疑わしいがの。この神武天皇が東征する時に、熊野から大和に入る険しい道の先導役をつとめ、勝利へと導いたとも言われておるんじゃ。だから、わしはわしらの航海には吉兆のような気がしとるんじゃ。きっと、われわれを目的地まで導いてくれるとわしは思おとるんじゃ。」
と、太一おじさんは明るい声で言った。

この日、日本からの衛星放送は、日本各地の博物館や宝物殿、資料館などで、瑪瑙や翡翠の勾玉が何者かによって盗難にあったことを伝えていた。関係者は、なんで勾玉だけを狙って盗んだのか皆目見当がつかないと話している。

翌日も、海は静かで快適な航海が続いた。
午前中に、1羽のコウノトリが飛んできて、石川弐右衛門半商店からの荷物を、甲板に落としていった。太平洋の真ん中に浮かぶ「カメレオン号」にどうやって荷物を届けることが出来るのか疑問に思っていたが、コウノトリ便というのは、まさに本物のコウノトリが運んで来るのだということが、このときわかった。
『サスケ』は早速、荷物を開けてみた。中からは、先日伝書鳩に注文書をくくりつけて注文した、「七方出」が現れた。「七方出」は変装用の衣装で、昔は商人や職人、農夫、侍などに変装するのに用いられたが、この「七方出」は現代の様々な職業や民族衣装にも、あっというまに変装できる物である。と、説明書には書いてあった。また、説明書には、自分の身長や体重などを入力するようにと書いてあった。
自分の体型にあった衣装になるとのこと。小さすぎたり、大きすぎてだぶだぶと言うことはないようだ。
『サスケ』は早速、エスキモーと入力してボタンを押した。すると、「七方出」を付けた『サスケ』の姿はアザラシの毛皮にくるまれていた。
これは凄い。何所からどう見ても、正真正銘のエスキモーだ。
それからいろいろな仕事や、民族の名前などを入力しては、ボタンを押し変身を楽しんだ。

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いるかのグリッピーへ続く


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2006年08月29日

第2章 大航海 いるかのグリッピー

復習する


いるかのグリッピー

海はこの日もべた凪で、穏やかな航海が続いた。
昼頃何処からともなく、イルカの群れが現れ、『カメレオン号』と競争するように泳ぎ回っていた。その数はおよそ40頭の大群だった。
子供たちは大喜びで甲板に出て、いるかの泳ぎを眺めていた。
「キットあのイルカさんがリーダーだわ。」
と、サキちゃんが言った。
「どうしてそんなことが判るんだい。」
と、『学者』君が聞いた。
「だって、あのイルカさん群れの前に行ったり、後に行ったりして絶えず仲間のことを気遣っているように見えるよ。間違いなくリーダーだわ。」
と、サキちゃん。
「良く観察しているね。サキちゃんは。」
と、高校生のノッポ君。
「サキちゃん、イルカさんとお話してみないかい。」
と、言いながら、学者君は甲板から集音マイクのようなものを海中へと降ろし始めた。
これは、犬の鳴き声翻訳機『バゥリンガル』を開発した玩具メーカーの技術者とドクター大松が共同開発した『イルカ語翻訳機』だよ。
イルカはいろいろな音を出して仲間とのコミュニケーションに使っているらしいことは良く知られているが、人間がイルカと直接会話をすることは出来なかった。それを可能にしたのが、この翻訳機『バゥリンガル・イルカ』なんだって。
ドクター大松さんは「くじら、イルカ、犬、猫語の翻訳機はすでに完成した。ペットや野生動物の翻訳機は作っていても楽しいが、食料にするのを目的に飼育している家畜用の翻訳機は作る気がしない」と言い、決して作ろうとはしなかった。
「病気になった家畜を医者に診てもらって、病気が良くなったらと殺場へ連れて行くという畜産家の気持ちにはなれない。」とも言っていた。
「サキちゃん、このヘッドフォンを耳に当ててごらん。」
と、言って学者君は、サキちゃんにマイク付きのヘッドフォンを手渡した。
「何か話しかけてみてごらん。」
という学者君の声に促されて、美咲ちゃんはイルカに話しかけた。
「イルカさん、泳ぐのがとても上手ね。私の名前は美咲です。あなたのお名前は。」
「ボクノ名前ハ、ぐりっぴーデス。」
と、イルカのリーダーは答えた。
「すごい!!」
「本当にイルカさんとお話ができるわ。夢みたい。私感激だわ。」
と、サキちゃんは大喜び。
「あなたたちは、何処まで付いて来てくださるの。私たちはずっとずっと遠くへ行くのよ。」
「ヤタガラスノ勘三郎サンニ、コノ船ノ水先案内ヲスルヨウニ言ワレマシタ。」
と、グリッピー。
「えっ、ヤタガラスさんが、イルカさんたちに私たちの道案内をするように頼んだの。あのヤタガラスさんの名前は勘三郎っていうんだ。それであなたたちは船の周りを泳いでいるのね。でも、何故勘三郎さんはあなたたちにそんなことを頼んだのだろう。メノウの勾玉は置いていくし、本当に不思議な鳥だこと。」
「ワタクシタチニハ、ワカリマセン。タダ言エルコトハ、勘三郎サンガ、コノ船ガ来ルノヲ待ッテイタトイウコトデス。」
「コノ先ニ、非常ニ危険ナ海域ガアリマス。ソコデハ、磁気嵐ガ常ニ発生シテイテ、ワタシタチノ体内コンパスモ狂ワサレマス。デスカラ、ソノ手前マデシカゴ案内デキマセン。」と、グリッピーはすまなそうに言った。

忍者通信3号へ続く

2006年08月30日

第2章 大航海 忍者通信3号

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忍者通信3号
太一は船長室で、船長の海江田千里と海図を前にして打ち合わせをしていた。
「後三日もすると目的の海域に達する。イルカのグリッピーくんの話だと、目的の海域周辺は常に磁気嵐が発生しているそうだ。」
と、太一。
「そこがまさしく、私たちの目指す目的の海域に違いない。6億5000万年前に分裂した小惑星のひとつが地球と激突した、その衝撃でそこに磁気異常が発生したのだろう。そのとき、大気より軽い金属を含むフー岩が造られたというわけですね。
イルカは微弱な磁気異常も感知する能力を持っている。野生の力とはたいしたものだ。われわれ人類も遙か昔にはそのような能力を持っていたんだろうが、今ではごく一部の超能力者しかその能力を発揮できない。」
と、海江田船長は言った。
「本当にそうですね。私たちには予知できない地震などの天変地異も、野生の生き物は何日も前から感知するそうですからね。われわれ人間は、科学の力に頼りすぎて、次第にそのような能力を喪失してしまったようだ。」
と、太一。
「これから忙しくなりますから、今のうちに十分休養を取って置いてください。目的の海域では、小型の潜水艇を使って、例の資源探査を行います。出来れば、サンプルの試掘までこぎつけたい。」
と、海江田船長。
『カメレオン号』はいつしか赤道を超え、南半球に達していた。夜空には北極星に替わって、南十字星が瞬いていた。
北十字星は5つの星から成り立っていて中心の星を見つければあとの4つを見つけるのは楽だけど、南十字星は4つの星の集まりで中心に星がないので、最初は見つけるのに苦労したよ。それに、南半球の星空は図鑑でしか見たことがないから、馴染みがないので余計に大変だったよ。
翌日の早朝、例の伝書鳩が「忍者通信3号」を運んできた。

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ちょっと見ただけでは何の事やら分からなかった。
とりあえず、五十音表を紙に書いて、一文字ずらした換字式を試みてみた。
ことけれえとものけむぜはかたあたりんやいせんひだとたてなごとま。がはさうにをこらといをはぷたすに。
やっぱり、何のことだか分からない。
それでヒントにある7×7がきになったので転置式を試みた。
上の文章を7文字ずつに切ってみた。
こ と け れ え と も
の け む ぜ は か た
あ た り ん や い せ
ん ひ だ と た て な
ご と ま 。 が は さ
う に を こ ら と い
を は ぷ た す に 。

左から下に続けて読んでみると、文章が現れた。
『このあんごうをとけたひとにはけむりだまをぷれぜんと。こたえはやたがらすとかいてはとにもたせなさい。』と読める。
やったー。『サスケ』は暗号が解けたことに感動した。
鳩は、『サスケ』が暗号を解くのをじっと待っていて、肩に留まっていた。
『サスケ』は、早速答えを書いて、鳩の足につけられている通信筒に入れた。
プレゼントが届くのを楽しみに、次の忍者通信が来るのを心待ちに待つことにした。


リュウグウノツカイへ続く



posted by 冬野☆男 at 23:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 第2章 大航海 忍者通信3号 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月31日

第2章 大航海 リュウグウノツカイ

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リュウグウノツカイ

朝から、イルカの大群が『カメレオン号』の水先案内を買って出ていた。
今日は、海江田船長がグリッピーと会話を楽しんでいた。
グリッピーの話によると、彼らの行動範囲は意外に広く、日本の近海から、南西諸島、オーストラリア、ニュージーランド、南米大陸の太平洋岸まで回遊しているとのこと。大西洋はまだ行ったことが無いとのことだったが、金銀財宝を満載したまま沈没した船のありかも知っているようで、今回は違う目的があるので宝探しはできないが、近いうちに宝探しに協力する約束もちゃっかりとしたようだ。
「あっ、リュウグウノツカイだ。」
と、イルカのグリッピーが突然叫んだ。
グリッピーの前方30メートル先を、銀色に煌めく反物のような魚が優雅に泳いでいる。その長さは、およそ10メートル。立派なひげも体長と同じくらい長く、まさしく竜宮城の乙姫様の使者というような風格がある。
海江田船長も図鑑では見たことがあるが、本物を見るのは初めてだった。
「なんと美しい魚なんだ。まさに造形の神秘としか言いようが無い。」海江田船長は心の中でつぶやいた。
普段は深海に生息するこの深海魚が、なんで海面近くまで浮上してきたのだろう。キット海底で何か異変が起こっているのかもしれない。
海底火山の爆発か、それとも地震の前触れか、不吉な予感が海江田船長の脳裏をよぎった。
リュウグウノツカイが海面近くを遊泳している姿が目撃されてから、数時間から数日後に大規模な海底での地震が何度も観測されているからである。
グリッピーはリュウグウノツカイの方に近寄り、一緒に泳ぎだした。リュウグウノツカイはグリッピーを嫌がるわけでもなく、優雅な泳ぎを続けていた。
子供達も初めて見るリュウグウノツカイの美しさに見とれていた。
突然サカナ君が「リュウグウノツカイを見て思い出したことがある。日本名で一番長い名詞もリュウグウに関係あるけど分かるかな。」
「日本で一番長い名詞と言えば、『寿下無寿下無後光のすり切れ海砂利水魚の水行末雲行末風来末食う寝るところに住むところ藪ら小路の武ら小路パイポパイポの秋霖が秋霖がの宮輪台宮輪台のポンポコピーのポンポコナーの長久名の長助』でしょう。」と、スミレちゃん。
スミレちゃんというのは、メガネ君の妹で小学3年生。名前は小笠原優花っていうんだ。
「スミレちゃん、よく覚えたね。でもそれは落語の中の名前で、ぼくの言っているのは、図鑑に載っている名前で一番長い名前のこと。海草のアマモの一種でリュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシというのが一番長い名前だよ。」と、サカナ君。
「さすがにお魚を専門に勉強している大学生はちがうわね。」と、ネネちゃん。
「いやあ、くだらないことしか身に付かなくてね。肝心なことは覚えられないんだよ。もう大学に5年間籍を置いているけど、未だに2年生だしね。」
「サカナ君。それはさぼりすぎ。まじめに学校に行ってないでしょう。」とマリアさんのきつーい一発。
「もう大学なんて辞めちゃえよ。」ととどめの追撃砲。
「いやー、参ったな。ぼろくそじゃん。言わなきゃ良かった。」としょんぼり顔のサカナさんでした。
「わたしも長い名前知ってるよ。ピカソって言う画家の名前はやたら長いんだ。『パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピニャーノ・デ・ラ・サンテシマ・トリニダット・ルイス・イ・ピカソ』て言うんだよ。」と、レモンちゃん。
「ひぇ。よくそんな長い名前暗記しているな。信じらんねえな。」と、マンガ君。
リュウグウノツカイは小一時間ほど『カメレオン号』の前に姿を見せていたが、やがて深海へと泳いでいき皆の視界から消え去った。
海江田船長は、乗組員に海面の色の変化や泡の異常などどんな細かいことでもいいから異変があったら報告するよう命令を下した。
海底火山が爆発すると、硫黄分の混じった噴出物や蒸気が海面に現れるからである。
海江田船長の危惧をよそに、その日は何事もなく過ぎ去ったが、洋上は波もなく、風もなく油を張った水面のように穏やかで、かえってあまりの静寂に不気味でさえあった。
翌日も穏やかな航海が続き、イルカの群れは水先案内人よろしく、『カメレオン号』を先導していた。
太陽が真上からやや西に傾きかけた頃、突然異変が現れた。
『カメレオン号』の右舷前方の海面がにわかに盛り上がり、あわ立ち始めた。
イルカの群れは、蜘蛛の子を散らしたように、てんでばらばらに乱れた。
泡の中から、赤黒い巨大な脚が現れた。その脚には不気味な吸盤が1列に並んでいた。
突然一頭のイルカが自由を失いもがき始めた。イルカの体には、赤黒い脚が巻きついていた。
仲間のイルカたちは、捕らわれた仲間を助けるために、怪物めがけて突進していった。
怪物は、巨大なたこのように見えるが、脚の数が八本よりはるかに多い。
「あれは、レッドデビルオクトパス(赤い悪魔タコ)に違いない。とても凶暴なタコで、脚のかずも普通のタコの2倍の16本もある。吸盤も普通は2列なんだけれども、こいつは1列なんだ。」と、サカナ君。
「イルカくん頑張れ。」「イルカさん頑張って。」みんなは口々に声援を送った。
イルカには鋭い牙、攻撃用の角や爪などは存在しないが優れた頭脳と、ファミリーとしての団結力がある。捕らわれた仲間を助けるために、魚雷のような波状攻撃が果てしなく繰り広げられた。しかし、レッドデビルオクトパスの攻撃は執拗で、イルカを捕らえた吸盤は、硬く締め付けた万力のようにイルカを放さない。吸盤が、イルカの頭頂にある鼻腔をふさいでしまった。
呼吸の出来なくなったイルカは、もがき苦しみあえいでいた。
レッドデビルは、弱ったイルカの急所に鋭いカラストンビでかみついた。
海面は、イルカの流した血と、レッドデビルオクトパスの吐いたスミとで赤黒く変色していた。
真っ赤な太陽が、西の水平線に沈む頃、ようやく死闘は終焉を迎えた。
捕らえられたイルカは、自由に息ができなくなり、命を落とした。怪物も、度重なるイルカの体当たり攻撃に3本の脚を失った。ちぎれた怪物の脚はそれでも、イルカの体を捕らえたまま放さない。
イルカは死んだ仲間を真ん中にして取り囲み、口々に弔いの言葉を投げかけている。彼らの体には無数の傷が浮き出ており、死闘の凄さを物語っていた。
最後に、リーダーのグリッピーが別れの言葉を述べると、今まで波間に漂っていた体がぐらりと揺れ、海底へと引き込まれていった。

MT03A.jpg リュウグウノツカイ

魔の海域へ続く

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