最近のコメント

2006年08月31日

第2章 大航海 リュウグウノツカイ

復習する


リュウグウノツカイ

朝から、イルカの大群が『カメレオン号』の水先案内を買って出ていた。
今日は、海江田船長がグリッピーと会話を楽しんでいた。
グリッピーの話によると、彼らの行動範囲は意外に広く、日本の近海から、南西諸島、オーストラリア、ニュージーランド、南米大陸の太平洋岸まで回遊しているとのこと。大西洋はまだ行ったことが無いとのことだったが、金銀財宝を満載したまま沈没した船のありかも知っているようで、今回は違う目的があるので宝探しはできないが、近いうちに宝探しに協力する約束もちゃっかりとしたようだ。
「あっ、リュウグウノツカイだ。」
と、イルカのグリッピーが突然叫んだ。
グリッピーの前方30メートル先を、銀色に煌めく反物のような魚が優雅に泳いでいる。その長さは、およそ10メートル。立派なひげも体長と同じくらい長く、まさしく竜宮城の乙姫様の使者というような風格がある。
海江田船長も図鑑では見たことがあるが、本物を見るのは初めてだった。
「なんと美しい魚なんだ。まさに造形の神秘としか言いようが無い。」海江田船長は心の中でつぶやいた。
普段は深海に生息するこの深海魚が、なんで海面近くまで浮上してきたのだろう。キット海底で何か異変が起こっているのかもしれない。
海底火山の爆発か、それとも地震の前触れか、不吉な予感が海江田船長の脳裏をよぎった。
リュウグウノツカイが海面近くを遊泳している姿が目撃されてから、数時間から数日後に大規模な海底での地震が何度も観測されているからである。
グリッピーはリュウグウノツカイの方に近寄り、一緒に泳ぎだした。リュウグウノツカイはグリッピーを嫌がるわけでもなく、優雅な泳ぎを続けていた。
子供達も初めて見るリュウグウノツカイの美しさに見とれていた。
突然サカナ君が「リュウグウノツカイを見て思い出したことがある。日本名で一番長い名詞もリュウグウに関係あるけど分かるかな。」
「日本で一番長い名詞と言えば、『寿下無寿下無後光のすり切れ海砂利水魚の水行末雲行末風来末食う寝るところに住むところ藪ら小路の武ら小路パイポパイポの秋霖が秋霖がの宮輪台宮輪台のポンポコピーのポンポコナーの長久名の長助』でしょう。」と、スミレちゃん。
スミレちゃんというのは、メガネ君の妹で小学3年生。名前は小笠原優花っていうんだ。
「スミレちゃん、よく覚えたね。でもそれは落語の中の名前で、ぼくの言っているのは、図鑑に載っている名前で一番長い名前のこと。海草のアマモの一種でリュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシというのが一番長い名前だよ。」と、サカナ君。
「さすがにお魚を専門に勉強している大学生はちがうわね。」と、ネネちゃん。
「いやあ、くだらないことしか身に付かなくてね。肝心なことは覚えられないんだよ。もう大学に5年間籍を置いているけど、未だに2年生だしね。」
「サカナ君。それはさぼりすぎ。まじめに学校に行ってないでしょう。」とマリアさんのきつーい一発。
「もう大学なんて辞めちゃえよ。」ととどめの追撃砲。
「いやー、参ったな。ぼろくそじゃん。言わなきゃ良かった。」としょんぼり顔のサカナさんでした。
「わたしも長い名前知ってるよ。ピカソって言う画家の名前はやたら長いんだ。『パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピニャーノ・デ・ラ・サンテシマ・トリニダット・ルイス・イ・ピカソ』て言うんだよ。」と、レモンちゃん。
「ひぇ。よくそんな長い名前暗記しているな。信じらんねえな。」と、マンガ君。
リュウグウノツカイは小一時間ほど『カメレオン号』の前に姿を見せていたが、やがて深海へと泳いでいき皆の視界から消え去った。
海江田船長は、乗組員に海面の色の変化や泡の異常などどんな細かいことでもいいから異変があったら報告するよう命令を下した。
海底火山が爆発すると、硫黄分の混じった噴出物や蒸気が海面に現れるからである。
海江田船長の危惧をよそに、その日は何事もなく過ぎ去ったが、洋上は波もなく、風もなく油を張った水面のように穏やかで、かえってあまりの静寂に不気味でさえあった。
翌日も穏やかな航海が続き、イルカの群れは水先案内人よろしく、『カメレオン号』を先導していた。
太陽が真上からやや西に傾きかけた頃、突然異変が現れた。
『カメレオン号』の右舷前方の海面がにわかに盛り上がり、あわ立ち始めた。
イルカの群れは、蜘蛛の子を散らしたように、てんでばらばらに乱れた。
泡の中から、赤黒い巨大な脚が現れた。その脚には不気味な吸盤が1列に並んでいた。
突然一頭のイルカが自由を失いもがき始めた。イルカの体には、赤黒い脚が巻きついていた。
仲間のイルカたちは、捕らわれた仲間を助けるために、怪物めがけて突進していった。
怪物は、巨大なたこのように見えるが、脚の数が八本よりはるかに多い。
「あれは、レッドデビルオクトパス(赤い悪魔タコ)に違いない。とても凶暴なタコで、脚のかずも普通のタコの2倍の16本もある。吸盤も普通は2列なんだけれども、こいつは1列なんだ。」と、サカナ君。
「イルカくん頑張れ。」「イルカさん頑張って。」みんなは口々に声援を送った。
イルカには鋭い牙、攻撃用の角や爪などは存在しないが優れた頭脳と、ファミリーとしての団結力がある。捕らわれた仲間を助けるために、魚雷のような波状攻撃が果てしなく繰り広げられた。しかし、レッドデビルオクトパスの攻撃は執拗で、イルカを捕らえた吸盤は、硬く締め付けた万力のようにイルカを放さない。吸盤が、イルカの頭頂にある鼻腔をふさいでしまった。
呼吸の出来なくなったイルカは、もがき苦しみあえいでいた。
レッドデビルは、弱ったイルカの急所に鋭いカラストンビでかみついた。
海面は、イルカの流した血と、レッドデビルオクトパスの吐いたスミとで赤黒く変色していた。
真っ赤な太陽が、西の水平線に沈む頃、ようやく死闘は終焉を迎えた。
捕らえられたイルカは、自由に息ができなくなり、命を落とした。怪物も、度重なるイルカの体当たり攻撃に3本の脚を失った。ちぎれた怪物の脚はそれでも、イルカの体を捕らえたまま放さない。
イルカは死んだ仲間を真ん中にして取り囲み、口々に弔いの言葉を投げかけている。彼らの体には無数の傷が浮き出ており、死闘の凄さを物語っていた。
最後に、リーダーのグリッピーが別れの言葉を述べると、今まで波間に漂っていた体がぐらりと揺れ、海底へと引き込まれていった。

MT03A.jpg リュウグウノツカイ

魔の海域へ続く

この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。