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2006年08月17日

第1章 出航 カツゾーの夢(1)


復習する


「今日はわれわれにとって特別の日である。早いものであの屈辱の日から30有余年が経った。」カツゾーじいさんは感慨深げに語り始めた。
大人たちは、カツゾーじいさんのほうに視線を向け、一言も聞き漏らすまいと耳をそばだて、真剣なまなざしで凝視していた。
「あの時は、国際社会を味方に付け、独立の正義は我が方にあったのだが、すんでのところでわれわれの願いは成就しなかった。非常に悔しい思いを味わった。」
カツゾーじいさんは、江戸時代にお家取り潰しに遭った武士が、お家再興を誓って行動したように吉里吉里国の再独立を密かに夢見て工作していたんだって。
実際、カツゾーじいさんの先祖は、豊臣秀吉が小田原城を総攻撃したときに参戦しなかったかどでお家取り潰しの憂き目に会った、東北地方の豪族葛西晴信の家臣だったので、因縁めいたものを感じていた。
その当時、葛西家と大崎家は東北地方の豪族で勢力争いの真っ最中だった。
秀吉は天下統一をもくろんでおり、自分に忠誠を誓う証として、全国の諸大名に小田原攻めに参戦を求めた。独眼竜政宗として名高い伊達政宗は、中央の動静に敏感だったが、葛西も大崎も所詮田舎侍で、自分たちの権力争いのほうが火急の事態と考えていた。
政宗の、「東北のことは自分に任せろ。俺がうまく秀吉に話しておくから、参戦しなくても大丈夫。」との言葉を真に受けて、小田原攻めには参戦しなかった。
秀吉は、彼らが参戦しなかったことに激怒し、両家の領地をとり上げてしまった。挙げ句の果てがお家取りつぶしという最悪の事態を招いてしまった。
だから、カツゾーじいさんは伊達政宗に対して、悪い感情を抱いている。

慎重の上にも慎重に、細心の注意を払い吉里吉里国の同志たちは新たな作戦を練った。その中心がカツゾーじいさんであり、カツゾーじいさんの長男太一おじさんとイサムおじさんも、当時は少年ながらも、その日が来ることを固く信じて活動していたんだって。
そして、皆が吉里吉里国再興を果たそうと模索している間に、世界中を驚かす大きな事件が起こったんだ。
それは、ぼくの伯父さんの海江田四郎が率いる日本の海上自衛隊の原子力潜水艦『大和』が、世界に向かって独立宣言をしたことなんだ。
なんたって世界中が驚いたのなんのって、今までの国の概念を根底から覆すような出来事なんだから。伯父さんは原子力潜水艦大和を独立国として認めるように、ニューヨークの国連ビルに乗り込んじゃったんだ。
そのニュースを聞いて喜んだのがカツゾーじいさんで、こんな手があろうとは、吉里吉里国の再独立はその手で行こう、ということに決めたんだって。
カツゾーじいさんは同志を集めた秘密会議でこう言ったんだ。
「領土を持とうとするから国境が生まれ、国同士の争いごとが起きる。
現に、北方四島は未だに返還されないままだし、ロシアは返す気が無い。政府も口では北方領土返還と唱えているけど、腰が引けているから全く交渉にならない。こんな状態じゃ100年経ったって解決しやしない。
東シナ海では、隣国との間に竹島や尖閣列島の魚釣島の領有権問題が解決されないままくすぶっている。
それこそ地球上のアフリカ、中東アジアを始め世界中のいたるところで国境紛争や民族の対立など国同士の争いはゴマンとある。
国にとって領土というのは大切なものだから、国民の犠牲を払ってでも守らなければならないと考えられている。だから紛争や戦争が絶えないのだ。
小笠原諸島の無人島では、波の浸食や風の風化によって島が消滅しないよう莫大なお金を使って護岸工事をしたほどだ。外国からは、あれは島ではなく岩礁だと指摘されてもいる。
地球はわれわれ人類だけの物ではない。
人間はたまたまそこに住んでいるだけで、他の生き物も棲んでいる。彼らに、国境や領土といった概念はない。
従って、われわれは領土の主張などは一切しない。先の独立運動では、猫の額ほどの面積でも、日本国にしてみれば領土を失うことになるのだからそれこそ必死だったわけだ。そのことを教訓にして、われわれは他国の経済的排他水域の外、つまり公海上で生活する道を選択した。それがわれわれ吉里吉里国民の生き方だ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
われわれはこの惑星を地球と呼んでいるが、実際に陸地と海洋を比べれば陸地のほうが少なく、海の面積が7割を占めるのだから、地球以外の生き物がいたとしてその生物から見れば海球と呼んでも不思議の無いほど海が広いのがこの星なのだ。
陸上では一番高い山といわれているエベレスト(中国名チョモランマ、チベット名サガルマータ)でさえ、標高8848メートルしかない。それに比べて、海底の一番深いところはマリアナ海溝で水深10920メートルもある。
陸上の生き物は陸地の表面にへばりついているだけだが、海の中の生き物は、水中のいたるところを生息場所にしている。
狭い陸地に人間がひしめき、森林を切り開き、野生動物や植物の生息域を脅かし、動植物の希少種が毎日毎日消滅していく地球。地球が人類のためだけに存在していると、勘違いしているおろかで傲慢な人間たちのなんと多いことか。われわれ吉里吉里国民は、地球上のあらゆる地域との紛争を起こさないよう海上生活者になる。
われわれのこれからの産業は、インターネットプロバイダー(IP)である。狭い船の中でやれる産業は、漁業かコンピュータ関連しかない。大陸棚と呼ばれる各国の領海内が良好な漁場で、公海上では漁業は成り立たない。その点、IPはスーパーコンピュータと優秀な人材がいれば、海上だろうと氷上だろうと、孤立無援の山中だろうとどこでも出来る。まさにわが国にふさわしい産業である。必ずコンピュータ全盛の時代がくる。いや既に、20世紀終盤からその地位は変わりつつある。重厚長大な、産業などコンピュータ関連企業にその地位を脅かされることになるだろう。
われわれは、世界でもっとも安全でセキュリティーに優れたプロバイダーとして世界中の銀行や企業と契約を結ぶ。

カツゾーの夢(2)

posted by 冬野☆男 at 16:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 カツゾーの夢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月18日

第1章 出航 カツゾーの夢(2)

復習する



演算機能の優れたスーパーコンピュータも丸ビルのような巨大な大きさは必要なくなり、せいぜい丸ビルの中のワンルームで事足りるようになるはずだ。
そうなれば、船に積み込んで運用することも可能になる。だから、コンピュータのスペシャリストを今から養成しておかなければならない。」カツゾーじいさんはここまで一気にまくし立て、一息入れた。そして、会議のメンバーを見回した。
みんなは、カツゾーじいさんの演説に酔いしれ、新たな闘志を胸に秘めた。
「さて、諸君はシーランド公国という国を御存知かな。イギリスの東岸10キロメートル沖合いにシーランド公国がある。元々はイギリス軍の海上要塞として建設されたものだが、第二次世界大戦が終わってイギリスが手放し、誰も常駐しなくなった。
1967年9月2日、パティー・ロイ・ロバーツなる人物がこの要塞に突如上陸し、あろう事か独立宣言をした。
世界は狭い、わしらと同じようなことを考えるやからがいたのだよ。
慌てたイギリスはそんなことは認められないと裁判を起こしたが敗訴してしまった。
このシーランド公国には14人が住んでおり、軍隊もある。といっても兵士は一人だけで、武器もライフル銃が一丁あるだけらしい。
しかし、通貨もあるし、切手も発行している。国旗もある。われわれにとってはとても参考になる。」

そのときを境に、プロジェクトチームが結成され、海上生活のための研究がスタートしたんだって。

二度目の独立工作は、以前にも増して慎重にならざるを得ない。
だってそうだろう、それこそ公安当局も吉里吉里国に対しては不穏な動きが無いかと毎日目を光らせていただろうから、なおさらだよね。
アジトを作らなければならないが、さりとて広大な用地の取得や工場の建設は目立ちすぎて危険がありすぎるから行き詰っていたんだ。そんな折、独立準備のカモフラージュには格好の物件が見つかった。
造船不況で経営に行き詰っていた鶴亀造船所を破格の値段で手に入れることができ、そこで密かに『カメレオン号』の造船が始まったんだって。
30数年前、吉里吉里国は、日本国の執拗な抵抗に遭い独立には失敗したんだけれど、幸いなことにあの時用意した潤沢な軍資金は日本政府に発見されることなく無事だった。その軍資金の一部を、鶴亀造船所の買収資金にあてたのだそうだ。
「『カメレオン号』は非武装中立を目指すため兵器と呼べるほどの武器は搭載していないが、最新の科学技術の粋を随所に集めてある。」とぼくのお父さんが言っていた。
そのひとつは、石油などの地下埋蔵エネルギーや、使用済み副産物の安全処理が完成していない原子力エネルギーなどは一切使わないで、地球環境にやさしい水と太陽と風からエネルギーを作り出していることなんだって。
ぼく、物理はあまり得意じゃないから良く分からないけど、高校生の『学者君』お兄ちゃんが教えてくれた。
「水を電気分解すると、水素と酸素になる。水素ガスをコントロールして燃やし、エネルギーとして利用する。
この地球上では化石エネルギーは有限だが、水は無限にあると考えていい。水素ガスとして利用した後は、最終的に水と二酸化炭素に戻るからいつまでも再生される。
これこそ究極のエネルギーなんだ。
今は、石油産出国が石油を送り出すために、パイプラインが延々と続く風景が見られるが、将来は、水を送るためのパイプラインが世界中を埋め尽くすことになるだろうな。
さんさんと降り注ぎ、地球を温めてくれる太陽のエネルギーも今はほとんど利用されていないんだ。
サスケ君はソーラーカーって知っているよね。それと、人工衛星のエネルギーも太陽光を利用しているんだけれどまだまだ利用価値があるんだ。
海の上で生活するには、どちらも直ぐに手に入る重要な資源だから、『カメレオン号』はこのただで手に入る資源の利用方法をとことん取り入れているんだよ。
ただ、晴れの日ばかりとは限らないから、風力や潮力も利用しているけどね。」

カツゾーの夢(3)


posted by 冬野☆男 at 18:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 カツゾーの夢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月19日

第1章 出航 カツゾーの夢(3)

復習する

「どうやら無事に日本国の領海を抜け出せたようだな。」
と、イサムおじさんは感慨深げに息子の勝一に話しかけた。
「これからこの船はどこに行くのかなあ。」
と、マンガ君がたずねた。
「わしらの目的は新しい国づくりだ。
侵略や略奪の無い世の中にすること。他国の領土を奪ったり、地図の上での陣取り合戦など無意味なことを世界中に判らせたい。
それと、原子力や石油に依存するエネルギー政策の転換を各国に呼びかけなければいけない。
1960年ごろ石油資源は30年で掘りつくされると考えられていた。
それから新しい油田の発見や採油技術の向上で未だに石油は掘り続けられてはいるが、枯渇するのは時間の問題なのはいうまでもない。その限りある石油の利権を求めて、国連の名を借りた侵略や戦争が後を絶たない。
一方では、そのエネルギー問題の解決を原子力に頼ろうとしている。
それだってウラン資源が無尽蔵にあるわけではなく、足りなくなることは判っている。それで、使用済みのウランをリサイクルする技術が考えられている。理論上は可能だろ
うが問題が多すぎて、開発を途中で断念する国がほとんどだ。
ところが日本政府は開発を推進している。国民には安全だから大丈夫の一点張りで、安全の根拠は一切示されない。
そんなに安全なら、エネルギーの大量消費地である大都会のど真ん中に原子力発電所を作れば良いんだ。
そうすれば、送電中に損失するエネルギーも大幅に削減される。
でも現実には、都会から遠く離れた過疎地に建設されている。百パーセント安全だとは確信していない証拠のあらわれだ。
いつも力の弱いところ、お金のない地方が犠牲になる。このままでは、人類は自分たちの科学技術を過信しすぎて、取り返しの付かないところに行ってしまう。そんな気がするなあ。
現に、ソビエト連邦という国があったとき、チェリノブイリというところで、原子力発電所の爆発事故があって、多くの人が被爆した。日本でも、東海村で被爆事故がおこっている。
われわれは、ある鉱物資源を求めて航海に出る。
この鉱物資源は、フー岩といって、大気より軽い金属で出来ている。
まだ地球に隕石が降り注いでいた時代に、この金属は宇宙から飛んできて地球と衝突した。
普通なら、大気より軽い物質だから宇宙に飛び出していきそうなものだが、そのときの熱で周りの岩石が溶けて、偶然にもこの隕石を取り込んでしまったらしい。この鉱物資源については、われわれしか知らない。海江田船長が、航海中にたまたま計器の異常から発見した。
この、フー岩資源を利用して、宇宙船を作る。ほとんど燃料を使用しないで運行できる、宇宙船が作れる。
我が吉里吉里国は、何世代か後には宇宙に飛び出すことになるであろう。そのためにも、このフー岩を採掘しなければならない。
幸にも、この資源が眠る海域はどこの国にも所属していない。
いずれ、この地球に生命が存在しなくなる時代が必ず来る。
そのときが来てからでは遅すぎる。
2004年3月には、地球からわずか6600キロメートルの上空を小惑星が通過していった。
地球の半径が約6400キロメートルだから、いかにすれすれを通過したかが分かるだろう。
このときの小惑星は直径が8メートルという大きさだったので、地球の引力に捉えられたとしても、大気圏に突入すると地表に届く前にバラバラになり、大きな被害にはならなかっただろうが、いつでもその危険はつきまとっている。」と、イサムおじさんは熱っぽく語った。

『サスケ』たちの目の前で、またひとつ流れ星が流れた。
この流れ星を合図に、流れ星の天文ショーが開幕した。
一時間に50から60個の流れ星が夜空の一点からシャワーのように降り注いできた。真夏の天文ショーは明け方まで続いていた。
こんな凄い流れ星を見たのは初めてだから、『サスケ』は興奮しちゃって目が冴えてきて、結局朝方まで眠れなかった。
陸の上とは違って、360度まわりが全て空で、人工の光が届かない大海原での天文ショーはそれは見事なものだった。岩手県釜石の空も澄んでいて、それなりに星空は楽しめるけれど、海上で見るそれは、何十倍も素晴らしい。
『学者君』が教えてくれたんだけど、この夜地球はスイフト・タットル彗星の軌道と交差したんだって。そして、『サスケ』たちは一番良い特等席でこの天文ショーを見ることが出来た。
なんだか不思議だよね、流れ星は、彗星がはき出したチリが地球の大気に飛び込んで燃えた軌跡なんだけど。『サスケ』は心の中で思った。


こっくりさん

posted by 冬野☆男 at 21:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 第1章 出航 カツゾーの夢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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